地域を担う主権者を育てよう

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市島 宗典(中京大学)

選挙権年齢の18歳への引き下げを契機として、主権者教育の必要性が叫ばれている。総務省および文部科学省は高校生向け副教材を作成するなど、主権者教育を推進している。実際、大学1年生に国民主権の意味を尋ねても、その意味を正しく理解している学生が少ないことは大変嘆かわしく感じる。その実情を鑑みても、わが国において主権者教育が必要不可欠な時代となっているのである。

私はこれまで、地方自治体と連携し、ゼミにおいて、実際の地方自治体における政策課題に対する処方箋を課題としてきた。その代表的なものが愛知県選挙管理委員会との連携事業である。選挙啓発事業としての大学と選挙管理委員会との連携は全国的にも珍しく、総務省の常時啓発事業のあり方等研究会の最終報告書においても先進事例として取り上げられている。この事業は、2011年度に私のゼミからスタートし、現在では愛知県内6大学にまで広がりを見せている。

2015年度からは、愛知県選挙管理委員会のみならず、豊田市選挙管理委員会からも連携の申し出があった。その主たる目的は、小学校・中学校・高等学校における出前授業(模擬投票)の企画およびその実施である。2015年度は、愛知県選挙管理委員会との連携で高等学校3校、豊田市選挙管理委員会との連携で小学校12校において出前授業を企画・実施した。具体的には、ゼミの学生が小学校・中学校・高等学校で模擬投票を行うための出前授業を複数メニュー企画し、そのメニューの中から出前授業に応募した学校側にいずれかを選択してもらい、それをゼミの学生が自ら実施するというものである。

これまでの地方自治体との連携は、地方自治体の施策に大学生の視点からの提案を反映させるというものであり、地方自治体と大学のwin-win関係にもとづくものであった。この小学校・中学校・高等学校における出前授業の企画・実施においては、地方自治体と大学に小学生・中学生・高校生というアクターも加わり、win-win-win関係とも言うべき関係が構築されているように思う。大学生が地方自治体の選挙啓発事業を小学生・中学生・高校生を対象に企画・実施するという形態は、主権者教育あるいは民主主義の観点からも、これからの地域と大学との連携のひとつの方向性となっていくべきものと考える。

この実践は、「地方自治は民主主義の学校である」というブライスの言葉そのものの実践であるともとらえられよう。現在、実践している小学校・中学校・高等学校における出前授業は、それを受講する小学生・中学生・高校生に対する主権者教育であると同時に、それを企画・実施する大学生に対する主権者教育にも確実になっている。民主主義とは何なのか、国民主権とは何なのか、これらを多くの国民に正しく理解してもらうためにも主権者教育が必要である。現在、行っている地方自治体と大学との連携が、わが国における主権者教育の一助となり、地域を担う主権者を育成していくことを願いつつ、これからも引き続き、地域と連携して行う主権者教育に取り組んでいきたい。

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