地域政策における政治・行政の役割を改めて問い直す

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中村 匡克 (高崎経済大学)

今日の地域社会はさまざまな問題を抱えており、何らかの対応を求める声が多く聞かれます。私は、学会誌の編集に携わらせて頂いていますが、本学会では、これらの地域問題の原因究明や解決策について盛んに研究がなされていると感じます。「現実社会の問題を解決したい」「社会に貢献したい」という、学会員の強い問題意識が支えとなっているのだと思います。

同時に、同じような研究テーマであっても、研究者のスタンスによって議論の方向性に違いがみられるのが、学際的な色彩の強い本学会の特徴です。今回は、私の研究分野について紹介しながら、この点に関連して「地域政策に一言」申し上げてみようと思います。

私の研究分野は、公共選択論という政治経済学の一分野なのですが、その考え方はリバタリアニズムの世界に通ずるものです。リバタリアニズムは,個人的自由と経済的自由をともに重視する立場をとりますが、公共選択論はその中でも、小さな政府は認めつつ,これらの自由をともに尊重しようとする古典的自由主義に属します。

このようなバックボーンを大切にすると、地域問題に対する政治や行政の関わり方に注意を払いながら地域政策を論じなければなりません。たとえば、衰退した中心市街地の問題ひとつとっても、既存の商店を守るためのやたらな支援や大型ショッピングセンターの郊外出店への厳しい規制には疑問を抱きます。中心市街地と郊外もやはり競争しているのであって(もちろん、中心市街地に立地する店舗同士も、郊外の大型店同士も本来競争しているのですが)、そのことは安くて良い商品が提供されるという点において、周辺住民にとって大きなメリットがあるはずです。駅前のよい場所に土地を保有する人々だけが支援を受けられることも、公平とは言い難い側面があります。

ですが、このようなストーリーは、「地域の問題を解決したい」「困っている人びとを助けたい」という強い思いを抱いている研究者やステークホルダーとなる問題の当事者(この場合、中心市街地の店主たちや政治家・行政官たち)にとっては魅力的に感じられないかもしれません。実際、地域政策学を学ぶ学部学生たちには、私が論じる「美しくない」あるいは「優しくない」ストーリーはとてつもなく不人気だったりします(笑)。しかし、政治や行政が関わることに伴う問題も確実に存在するはずですし、それは時に汚職などの問題も伴って、市場による問題解決を図ったときよりもずっと深刻だったりするのです。

冒頭において述べたように、各種の問題に対してさまざまな議論があり、みんなで考えていくことは重要であって、それこそ本学会の魅力のひとつとなっていますが、それだけでは十分ではありません。「地域問題の解決にあたって政治や行政はどのように関わるべきか」、もっと言えば「私たちの社会は本来どうあるべきなのか」「なぜそのような社会は望ましいと考えられるのか」といった議論ももっとあって然るべきではないでしょうか。なぜなら、そうした議論の積み重ねこそが、地域政策学という新しい学問分野を切り開き、確立していくうえで重要になると考えられるからです。

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