軽井沢町の「旧住民」「新住民」「別荘人」

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大河原 眞美 (高崎経済大学)

地域政策を考える点で住民の主体性が要(かなめ)となることは言うまでもない。その住民が異質な者の集合体である場合には、比較的同質の場合よりも課題が多くなる。日本の地方公共団体の中で軽井沢町は、住民の多様性と特殊性において代表的な存在の一つと言える。

軽井沢町の町民の持家数は5,582軒(平成22年国勢調査)であるが、別荘数は14,643軒(軽井沢町税務課資料の平成22年1月)で、町民の家の2.6倍の数の別荘がある。別荘数は、平成26年に15,248軒、平成27年には15,467軒、平成28年には15,611軒と緩やかではあるが着実に増加している。また、人口も平成2年は15,616人だったのが、平成29年は20,295人と大幅な増加である。

このことから、軽井沢町には三つのタイプの住民がいることがわかる。一つは先祖代々軽井沢町に住む「旧住民」、二つ目は、近年の人口増加となっている町外から仕事や定年退職により居住するようになった「新住民」、三つ目は住民票を持たず別荘を所有している「別荘人」である。

住民票がない「別荘人」を住民に含めなくてもよいのではないかという考え方もあろう。一方、軽井沢町の固定資産税総額における「別荘人」の固定資産税の比率(註)は、70~80%ぐらいで、「旧住民」と「新住民」の合計が20~30%であることを考えると、経済的貢献度の高い「別荘人」を住民から外すという主張は苦しくなる。何よりも軽井沢町は、別荘、それに付随する観光で成り立っている町である。

ところが、軽井沢町の地域政策に関わる課題の一つは、この「別荘人」の立ち位置にある。「別荘人」は、多額の固定資産税を納付していても住民票を軽井沢町に移していないため、町会議員の選挙などを通して町政に参加することができない。また、町政の審議会等の委員に「別荘人」が就任することは極めて限定的である。例えば、自然保護審議会20名中「別荘人」が1名である。このため、自然保護審議会に、環境保護に関心の高い「別荘人」の考えを反映させることは難しく、別荘地の販売は区画内の樹木を全て伐採して売ることが珍しくない。その結果、都会の分譲地のように木々がなく直射日光を浴びる別荘地が出現している。アメリカの東部のマサチューセッツ州の高級別荘地であるマーサーズ・ヴィニャード島の場合、同島の土地利用計画機関の委員会には、全体21名中4名は「別荘人」である。このことからも、軽井沢町も、「別荘人」の意見が反映される組織づくりの検討をしてもよいと思われる。

軽井沢の自然保護が損なわれ景観が別荘地としてそぐわないものになれば、軽井沢町のブランド力は下がる。住民票を移していない「別荘人」は、他のブランド力のある地域で別荘を求める。別荘地に関わる職業が減れば、「新住民」も軽井沢町を去る。軽井沢町のブランド力を維持していくためにも、軽井沢町は、「別荘人」の自然や環境に対する意識を取り込んだ政策を進めていくことが望まれる。また、「別荘人」も、週末や夏期の別荘地の利用のみに専念するのではなく、別荘関連団体の活動を通して別荘地の環境維持に努めることが求められる。軽井沢の景観と環境の保持は、「旧住民」、「新住民」、「別荘人」の協働作業によって成り立つからである。

(註) 詳細は、『観光政策への学際的アプローチ』(高崎経済大学地域科学研究所編、勁草書房、2016)の拙稿「国際親善文化観光都市としての軽井沢町」を参照されたい。

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