「地方の幸せ」とは?

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上野 眞也(熊本大学)

 わが国の多くの地域では人口の減少・高齢化などによる地方衰退が危惧され、地方創生やCOCなどの政策が声高に進められています。他方で、東京オリンピックやリニア新幹線など国際都市としての首都圏への投資意欲も旺盛です。日本の人口の3分の1がここに集中している世界でも希有な国でもあります。ただ社会を人口や経済のこととしてだけではなく、市井に暮らす人々の「幸せ」から考えると、もちろんその比較は困難ですが、おしなべて世界各国の中でも低いようです。なぜ世界第3位の経済大国の国民が、将来の不安に駆られ小さな幸せすら感じにくい社会になっているのでしょうか。

 私たちはいまウィーン大学との国際共同研究として、阿蘇の農山村をフィールドとする地域政策研究を行っています。ウィーン大学は50年前に阿蘇市西手野集落を1年かけて集中的に住民の暮らしや集落調査を行っておりました。それから50周年を祈念してウィーン大学日本学研究チームと私たちが「阿蘇2.0」というプロジェクトを今年から開始しました。この間、高度成長期による集落の変化も大きなものがありますが、個々の家、家族メンバーが選択した人生が、一世代の時間を経て地域社会を驚くほど変化させています。そこに多様な観点から地域を考えるべきテーマがあることに気づかされました。一言でいうならば「地域の幸せ」とは何かを考えることではないかと思います。

 11月にウィーン大学で条件不利地域政策に関する国際学会が開かれ、オーストリアと日本の中山間地域政策や地域活性化策、ソーシャル・キャピタルなどについて研究者交流を行いました。地方の持続的な存続というテーマは、日本の農村だけではなく欧州の地域にも通づる普遍的で国際的な課題であると改めて感じたところです。

 日本地域政策学会は、「地域」というキーワードを大切にしつつ、コンテンポラリーな課題について考えて行くことのできる学会です。その中には、行政や防災、社会福祉、教育、環境、観光など多様な切り口がありますが、その全てが関わり合いながら「地域の幸せ」に反映しているのではないかと思います。日本地域政策学会の活動を通して、日本という国や地域社会の未来を、国際的な眼差しも活かして考え、提案していくことができるようになればと思います。

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