「改革」とは何だったのか? 

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大仲 克俊 (岡山大学大学院)

唐突ですが、私は1981年生まれで41歳になります。2000年に高崎経済大学地域政策学部に入学し、2009年に地域政策学の博士の学位を得ました。大学院在学時より、日本地域政策学会の会員となり、学会の皆様に研究者として育てていただきました。

さて、この1981年生まれ…、バブル経済の崩壊や経済のグローバル化に翻弄された世代であり、所謂「氷河期世代」と呼ばれる世代です。その世代の1人として、「改革」とは何だったのかという問いを日本地域政策学会の会員の皆さんに投げかけたいと思います。

私の本格的な研究は、小泉政権下において進められてきた構造改革特区による「一般企業の農業参入」からです。一般企業の農業参入が地域経済・社会・農業の観点から求めれた背景や政策の狙い、そして地域農業における役割について農業参入企業の農業経営展開から考察してきました。

この「一般企業の農業参入」の研究は、所謂我が国において規制等で守られ、発展に乏しいとされた「農業」の成長や新たな展開の推進を目的とした「改革」として進められており、現在でも企業の農地所有に対する制度改正の議論がなされています。

本稿の焦点はこの「一般企業の農業参入」に対する制度改正についてではありません。少し視点を変えてみて、このような「改革」は本当に我々の社会生活-さらに言えば、地域社会-において、改善に寄与してきたのかという問いかけです。

私は大学において、1980年代後半から始まる行財政の構造改革等の「改革」について、様々な先生方からその「改革」の在り方や評価を学ばせていただきました。特に、私の学部在学中では市町村合併が大きなテーマであり、合併によるメリット、デメリットについて先生方によって意見が異なっていたことを覚えています(ただ、私はあまり出来が良い学生ではなかったので…ちゃんと理解できていたでしょうか?恥ずかしい限りです)。

講義のノート等が残っていないので正確に確認できないのですが、個人的な記憶の範囲では、農業・農村の研究に携わる先生方は市町村合併によるデメリット-特に合併による役場機能の低下や農業集落への細やかな支援ができなくなる危惧-を訴えておられましたのを覚えています。

2015年より岡山大学に着任し、県内の市町村から地域振興策を目的にした農村調査事業を受けていく中で、市町村合併について考えさせられることが多々あります。これは岡山県内に限定した上での意見ですが、市町村合併をせず―ある意味「改革」を拒否した-自治体の方が現時点での活力があるのではないかと認識させられることが多々あるのです。

こういった市町村は非常に人口規模が小さく、役場のスタッフも少ないのですが、特産品の取組や少子化対策等の各種政策で効果的な成果を挙げています。無論、その背景には、当該自治体の特殊事情-例えば自治体内の固定資産税等の収入により財政の確保ができていた-の側面もありますが、その財政基盤は決して盤石ではなく、限定された予算・人員で様々な成果を達成している事実は時に勇気づけられ、そして考えさせられると同時に、大学や学会における先生方のご指摘は正しかったのだなと思いかえすこともあります。

ここで、「改革」とは何だったのかに戻ります。1980年代からの「改革」は、基本的な方向は規制緩和であり、公的部門の財・サービス供給の民間シフトと各種規制による参入障壁の撤廃であり、私の研究する「一般企業の農業参入」もその一つです。その背景には我が国の財政赤字の問題やグローバル化等による経済構造の改変を求めるものでした。私の個人的な感想ではあるのですが、物心ついた時から行財政・規制改革が叫ばれてきました。さらに言えば、それは現与党である自民党政権だけではなく、非自民党政権においても方向性は同じであると思います。

財政の制約や経済の国際化を前提とした「改革」でしたが、果たしてその「改革」は本当に我が国の社会・経済、国民の生活向上に貢献してきたのでしょうか?特に、私たち氷河期世代はこの「改革」の犠牲にさらされた世代とも言えます。行財政改革により国家・地方も含めて公務員の就職の選択肢は著しく制限され、各種改革-特に公共投資の削減や労働規制の改革等-はマクロ経済面でデフレ圧力に作用し、民間雇用の縮小・労働環境の悪化に繋がりました。

日本地域政策学会はこの「改革」においてどのような議論をしてきたのでしょうか。設立より地方分権や地域発の様々な取組について研究者だけでは無く、自治体の首長や国・地方自治体の行政官、民間の実践者の方々を招いて当学会ではシンポジウム等で議論をしてきました。この議論は、ある意味この「改革」の前提条件を踏まえたものであったのではないでしょうか?

そこで、私の一言ですが、この30年以上にわたる「改革」について、個々の「改革」の中身だけではなく、「改革」の方向性や前提条件も含めて、地域政策の視点から検証・評価していくことが求められているのではないでしょうか?設立趣旨の「地方分権が現実のものとなり、国と地方が対等となる構造改革が始まりました。」にも見られるように、地域政策の観点から「改革」に対する議論や提言を行ってきたのが日本地域政策学会です。2002年5月の設立から20年が経過した今だからこそ、この国で進められてきた「改革」について振り返り、「「改革」とは何だったのか?」「その方向性や前提条件が正しかったのか?」、そして、その「改革」がもたらした成果・効果について総括的に検証・評価していくことが必要ではないかと考えます。

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