『未来型観光人材』の育成に着手

2019年9月2日

八反田 元子 (札幌国際大学)

 観光を柱として経済の活性化と地域の振興を図ろうとする取り組み(以下「観光地域づくり」と略)が、 全国各地で進められている。地方地域のなかには、注目度が低かった地域資源や固有の生活文化などを観光対象とすることで、国内外の観光客を迎え入れている注目事例もある。新たな観光対象の創出や地域資源の価値を高め、観光地域づくりによる地域振興の可能性は、全ての地方地域にあると言えよう。
 
 しかし、実際に取り組もうとする際に直面するのが「適当な人材がいない」ということである。旅行業、宿泊業、運輸といったコアの観光産業においてさえ、人材の確保と低い定着率への対応で苦労している。こうした状況のもとで新たな取り組みである観光地域づくりに対応できる人材供給の体制は不十分と言わざるを得ない。
 地域という広がりのなかで観光産業を捉えると、実に多くの産業分野と関連している。土産物菓子を製造しテーマパークを開設している企業などは、観光を通して利益を生み出している側面を見れば観光産業である。さらに、人々の暮らしと深く係わる文化的・社会的活動などにも観光対象が拡大している状況のもとで、直ちに対応できる人材を求めることは困難である。なぜなら、観光地域づくりの中核となる人材には、観光産業で重視されている対人力に加え、地域の様々な分野の関係者と調整し、将来の方向性を描く企画力、諦めずに継続する力などが求められるからである。
 
 ここで留意すべきことは、観光活動の舞台となる地域の括りは、その地域の歴史的経緯や自然条件、主たる産業や受け継がれてきた生活文化などによって、範域が微妙に異なっていることである。加えてその範域のなかで多様な繋がりを持つ人々が重層的に活動していることである。この重層性を紐解くと、地縁・血縁、生産・流通・販売等の経済団体、祭典区などの歴史的・文化的団体、教育や福祉活動に関する団体など多様である。それぞれの団体やその構成員と観光との係わりの程度は異なるが、複数の側面をもって活動している。観光地域づくりの中核となる人材には、こうした地域の構図を理解し、輻輳する繋がりのなかで、課題を乗り越え前進し続ける、確たる意志を支える力が求められる。
 
 地域に適材が見つからないならば、地域価値の最大化を図る人材の育成を急がなければならない。目指すのは地域の魅力を感じ、その価値を認め、維持・保全にともに取り組んでくれる顧客の創出である。こうした地域の将来をデザインする意欲あふれる人材を『未来型観光人材』と称したい。小樽商科大学と札幌国際大学は観光庁の委託を受け、本年度の新規事業である「産学連携による観光産業の中核人材育成・強化事業」のなかで、観光地域づくりの中核となる『未来型観光人材』に求められる行動特性を探ることに着手した。

 

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