人口減少社会における自治のあり方を考える

2019年11月1日

古平 浩 (長野大学)

私が住む長野市は台風19号により千曲川の堤防が決壊し、甚大な被害を受けた。最も被害の大きかった長野市穂保・赤沼・豊野地区は、通称アップルラインと呼ばれる国道18号線沿いにあり、広大なリンゴ畑が広がる。また同地区は都市の郊外化の中で、宅地開発も進んでいる。12日の深夜から13日早朝にかけて、この地域を千曲川の濁流が襲った。最大で4.3メートルにも達したとも言われる同地区を襲った今回の水害は、災害に弱い都市機能を露呈した。長野市は、浸水により被害家屋から搬出された災害ゴミにその処理が対応できず、それがまた復旧の障害となっている。また被害の深刻さも影響したことと思うが、須坂市や飯山市など近隣の市町村に比べ災害ボランティアの受け付けも16日の9時と遅かった。

今回の「地域政策について一言」では、私も調査メンバーとして参加している長野県地方自治研究センターでの調査「人口減少社会における自治のあり方」に関連して、述べたいと考えていた。「人口構成の2040年問題」として今から約20年後には、国、地方ともに行政機能を持続できるかが危ぶまれること。「人口減少と高齢化で行政の運営が最も厳しい人口構成にさしかかる」とみる総務省の有識者研究会の見解。ここでは地方自治について、自治体が個別にフルセットの機能を持つのではなく、いくつかの市町村が圏域を作り、施設などの役割分担を進めることを促した。

平成の市町村合併では全国平均で46.7%の自治体が消滅したが、長野県では35.8%であった。長野県は当時、改革派知事と言われた田中康夫氏が、市町村の自立支援プログラムを実施していたこともあり、小規模自治体が多く残ることになる。他方、市町村合併に至った地域でも、住民投票や住民アンケートによる住民の意思決定が大事にされ、財政状況等の開示も積極的に実施された。このような経緯で、長野県は平成の市町村合併で、全国平均より合併が進まなかった地域となる。

平成の市町村合併から15年が過ぎ、当初の予定であれば合併特例債がストップされ、合併を経験した自治体の地方交付税が3割ほどカットされたことになる。合併は他県より進まなかった長野県であるため35の村が現存し、10自治体が人口5,000人以上、さらに4,000人以上が5自治体、3,000人以上が5自治体と続く。2,000人以上と1,000人以上がそれぞれ4自治体。さらに人口1,000人以下の最小規模の自治体が7となっている。こうした小規模自治体では、既にいくつかの市町村で圏域を作り、施設などの役割分担を進めるのみならず、消防や教育などの面からもそれが実施されている。

冒頭で取り上げた長野市は平成の市町村合併で、戸隠村・鬼無里村・大岡村そして先日の水害の被災地「豊野町」を編入し、その後も信州新町・中条村と編入した。長野市での災害対応については、災害復旧にむけて現状も多くの課題を残している。今回の災害から、非常時対応なども考慮した圏域での役割分担のあり方について、これまでと異なる視点からの議論が必要だと痛感した。

長野市をはじめ被災された地域の方々へのお見舞いと一日も早い復興を心から願います。

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