古いぶどう酒を新しい皮袋に

2021年2月1日

砂金 祐年 (常磐大学)

 2020年10月、ブランド総合研究所による「地域ブランド調査2020」が発表されました。それまで都道府県魅力度ランキングにおいて7年連続最下位だった茨城県は42位に浮上しました。魅力度ランキングそのものについては様々な意見があるところですが、茨城県民にとって最下位脱出は宿願とも言ってよく、県内ではひさしぶりに明るい話題となりました。

 最下位脱出の要因は様々な指摘がなされています。そのひとつが茨城県庁営業戦略部内に設置されたプロモーション戦略チームによる活動です。同チームはYou Tubeに茨城県公式チャンネル「いばキラTV」を開設。自治体では初となる茨城県公式VTuber「茨ひより」をはじめ、茨城県出身の芸能人を多数起用するなど、積極的な広報活動に努めました。「いばキラTV」は自治体が運営する動画チャンネルとしては異例の14万1000人(2021年1月現在)の登録者を記録するなど、大きな注目を集めています。

 ところで「いばキラTV」で紹介されている内容を見てると、袋田の滝やひたち海浜公園といった名所、常陸牛や奥久慈しゃもといった名物など、けっして目新しいものではありません。元々あったけれど、特に若い世代に対しては必ずしもアピールできていなかった地域資源を、YouTubeやVTuberといった新しいコンテンツによって紹介した点に、成功のカギのひとつがあるように思います。

 少し古い話しで恐縮ですが、私自身も「元々あった資源を新しいコンテンツで紹介する」という取り組みに関わったことがあります。それは茨城県城里町における「藤井川ダムカレー」の企画・開発です。

 前述のように、茨城県は長年魅力度ランキングで最下位に甘んじていました。さらに城里町は、常陽地域研究センターによる「県内市町村知名度ランキング」で最下位となり、街の公式Twitterで「日本一人気のない町」と称するなど、知名度不足が課題でした。

 そんな城里町を盛り上げるために、町内唯一の高校である県立水戸桜ノ牧高校常北校、常磐大学砂金ゼミナール、そして城里町役場の三者が連携した「高大官連携プロジェクト」が2016年に発足しました。高校生や大学生が議論を重ね、城里町にある藤井川ダムをモチーフにした「藤井川ダムカレー」を企画。資金調達のためにクラウド・ファンディングを実施し、目標額以上の寄付を集めることに成功しました。クラウド・ファンディングは資金調達だけでなく、知名度のアップにも貢献しました。町営の温泉施設のレストランで販売を開始し、現在も町内外から多くの来場者を集める人気メニューになっています。これも、ダムという元々存在していた資源をテーマに、クラウド・ファンディングという新しいコンテンツを利用したことが、成功の要因だと考えています。

 新約聖書には「新しいぶどう酒は新しい皮袋に入れるべきである」とあります。しかし地域政策については、古いぶどう酒を新しい皮袋に入れることも有効ではないでしょうか。

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