新型コロナ禍によるICTの発展と東京一極集中

2022年11月1日

大森 達也 (中京大学)

 2019年末ごろからの新型コロナウィルスのまん延は私たちのコミュニケーション手段に大きな変化をもたらした。新型コロナ禍前までは、馴染みのなかったZoom、Google Meetなどのオンライン会議システムも普及し、ビジネス界の業務だけでなく、教育界においても教育方法が変わった。情報通信技術(Information and Communication Technology, ICT)は私たちの生活に大きな影響を及ぼし、都会と地方の格差をICTは改善するとまで言われている。例えば、ICTの発展により、東京にあった本社機能を地方に移転させる企業だけでなく、原則テレワーク勤務として、居住地の制限なく出社を義務化しない大企業も近年では生まれてきた。ICTは人と人の対面によるコミュニケーションの機会を減らし、コミュニケーション時に発生する費用も削減でき、日本の人口の約29%が集中する東京圏の一極集中を改善できると考えられている。それを裏付けるかのように、近年では、新型コロナ禍の影響もあり、東京圏の人口も減少に転じてきている。しかし、このまま、東京一極集中は改善されていくのだろうか。

 ICTの発展が、人と人のコミュニケーション行動への変容を通じて、都市の形成に及ぼす研究として、1998年に発表されたGaspar and Glaeser (“Information Technology and the Future of Cities“,Journal of Urban Economics,Vol.43, 136-156,)がある。対面コミュニケーションの代替手段である電話などのテレコミュニケーション技術の発展は人々の間でのコミュニケーションの機会を増やし、対面で接する機会も増える効果を生み出す。このような効果が代替手段としての効果よりも強いとき、ICTは人々の対面コミュニケーションの補完の役割を果たし、人と人が対面で仕事する場である都市の機能を代替するものではなく、都市が衰退しないことを彼らの研究は示している。

 他方、都市が形成される要因の一つは「集積の利益」である。人の活動がある地域に集中し始めるとき、財の輸送費用や人のコミュニケーション費用が低下するようになり、人口集中が加速して、大きな都市が形成されていくと考えられる。最近のICTの発展は遠隔地の人とのコミュニケーションを容易にし、情報の輸送費用を低下させている。例えば、地方に設置されていた企業の営業拠点はICTの利用により不要となり、地方の支店・営業所の統廃合が進んでいるのは明らかである。言い換えれば、本社のある東京に社員を集中させることが、費用を小さくし、企業経営の観点からもICTの利用による東京集中が望ましいと言える。

 新型コロナ禍によるICTの発展が東京圏の過密を解消する要因となるか否かは歴史の判断となるが、ICTの発展により、人のコミュニケーションが活発化し、情報の輸送費用は低下するため。東京一極集中は今後も解消しないかもしれない。

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