自治体の審議会と「有識者」

2019年4月1日

佐野 亘 (京都大学)

 いまさら言うまでもないことだが、地域政策の形成に関わっているのは、行政職員や議員、首長だけではない。利害関係団体や地域コミュニティ、「コンサル」や「有識者」など、さまざまである。わたしのような実務に疎い者にも、審議会のメンバーにならないか、というお誘いの声がときどきかかる。ごくごく限定された状況であるとはいえ、行政の現場に近いところで仕事の一端を垣間見ることができるよい機会でもあり、できるだけお引き受けするようにしているが、それでもたまに何を期待されているかわからず当惑することもある。わたしの少ない経験からしても、国の審議会とは異なり、自治体の審議会は必ずしも単なる「お墨付き」のための機関ではなく、わりと実質的な貢献を期待されているような印象を受けている。ただ、それ自体はたいへんよいことであるものの、さて自分に何ができるのかとあらためて反省するとやや自信がなくなってくる。そもそも自治体は審議会に参加する有識者に何を期待しているのだろうか。行政職員がまったく知らない海外の最新事例や画期的な政策アイデアといったものだろうか。あるいは、さまざまな関係者が集まる審議会を中立的な立場でうまくまとめることが求められているのだろうか。あるいは、単なる「数合わせ」かもしれない…。思い切って行政の担当者の方に尋ねてみたところで、もちろん「先生のご見識を…」というような回答しかなく(当たり前だが)、このあたりなんとなくお互いに「忖度」をはたらかせなければならないような雰囲気もある。国の審議会については最近、森田朗先生が何冊か本を出されており、その実態はよくわかり、参考になるものの、自治体の審議会とは異なる点もあるように思われる。

 さらに「有識者の活用」という点からいえば、必ずしも審議会を通さないものももちろんある。わたし自身はそういう相談を受けたことはないものの、わたしの指導教員などはしばしば自治体などの職員から個別に相談を受けていたようであった。想像するに、かなり実質的なことまで踏み込んだ相談であり、こちらのほうが本来の意味での「見識」の活用であるようにも思える。

 地域政策の形成は、できるだけ多くの関係者を巻き込んで参加型でおこなわれなければならない、というようなことはよく言われ、また実践例も増えてきつつあるものの、その一方で「有識者のご見識」(≒専門知?)をどのようなかたちで活かせばよいか、という点についてはじつは意外にじゅうぶんな議論がなされていないのではないだろうか。ひょっとすると、自治体や部署によってさまざまなのかもしれないが、いずれにせよ、体系的になされているような気はしない。この学会の会員の多くもさまざまなかたちで自治体の政策形成に関わっているものと思われるが、そうした経験の言語化や共有の試みがなされてもいいのではないだろうか(酒席でエピソードとして聞くことはありますが…)。

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