若者の地元定着率向上は親世代の意識改革から

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山口 泰史 (東北公益文科大学)

人口減少と高齢化が進行する地方圏において、地域が将来的に存続していくためには、それを担う若者の存在が必要不可欠であると考えられます。すなわち、地域で生まれ育った若者が、(Uターンも含めて)どれだけ地域に残るかは、その地域の将来性を計る指標の1つといっても過言ではありません。
 
もちろん、生まれ育った地域に残るか否かは本人の自由ですが、私は、本人の選択には少なからず親の影響もあるのではないかと考えています。例えば、地域で生き生きと生活する親の下で育った子どもと、「こんな田舎に残っても仕方がない」と言われて育った子どもとでは、どちらが将来的に地域に残る可能性が高いかといえば、やはり前者の子どもではないかと推測されます。

2014年に「消滅可能性都市」という概念が全国的な衝撃を与えた際、そのリストには、私の在籍する大学が立地する自治体も含まれ、当時の首長はメディアの取材に対し、「東京に進学し、東京で就職するのが一番と思っている親たちの意識を変えてもらいたい」と答えました。そうした経緯もあり、2015年4月に、地元の高校などの協力を得て、高校3年生の子どもを持つ親に対して、「将来的に、子どもに地元に残ってほしいか」を問うアンケート調査を実施いたしました。

分析の結果、回答者のうち66.2%の親が「残ってほしい」と答えました。この値が高いのか低いのかについての判断は、類似の研究がないので分かりませんが、、注目すべきは、地元での生活に魅力を感じていない親ほど「残ってほしい」と答えた割合が低いことでした。
 具体的には、親子の関係を「父親が息子に対して」「父親が娘に対して」「母親が息子に対して」「母親が娘に対して」の4つに分解し、それぞれ「地元での生活に魅力を感じているか」と「子どもに地元に残ってほしいか」をクロス集計して検定を行ったところ、すべてにおいて統計的に有意な差がみられました。

以上から、若者の地元定着率を向上させるためには、雇用の創出など若者向けの対策も当然必要ですが、同時に、親の意識を変えること、すなわち、親世代(子育て世代)が住んで、魅力を感じられるような地域づくりが重要との仮説が成り立ちます。しかしながら、このような地域政策は、一朝一夕に実現できることではありません。時には親世代の声にも耳を傾けながら、複合的な地域課題を解決していく取り組みが、行政などには求められるでしょう。

ある一定世代より上の方は、イチローの「変わらなきゃ」というCMを覚えていらっしゃるかと思います。まさしく、まずは「大人」が変わるところから、地域が変わるのではないかと願って止みません。

(注)文中のデータは、山口泰史・江崎雄治・松山薫(2016)「山形県庄内地域における若年人口の流出と親世代の意識」『地学雑誌』125-4、p.493-505。より抜粋しました。

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