東日本大震災から復興に導く農山漁村の地域政策

2016年6月1日

鈴木 孝男(宮城大学)

 東日本大震災から5年が経過し、住宅再建のピークを迎えている。状況が様変わりした被災地では、被災者や地域の自立が求められている一方で、人口減少・高齢化社会が生み出す新たな課題が浮き彫りとなっています。こうした困難を乗り越えていくために、地域政策のあり方に大きな方向転換が求められています。

 津波被害では、多くの地域で浸水した宅地に居住規制がかけられ、安全な高台や内陸部へ居住地を移しての住宅再建が強いられます。また。移転先では郊外型住宅団地の開発手法により、かつての農山漁村の面影は失われてしまいました。断ち切られてしまった地域の個性、伝統文化を再生していくことが、故郷に対する住民の帰属意識や愛着心を育んでいくために欠かせません。加えて、避難所から仮設住宅、仮設住宅から恒久住宅へ移動する度に入居者を決める選考が重ねられたため、隣近所の関係を再構築しなければなりません。住宅を再建してからが復興の本番と良く言われますが、住民自らが一丸となって自分たちが暮らしていくまちをつくっていこうという機運をまずはつくり、その上で行政や民間らのアイディアや資源を結集し、新しいコミュニティを着実に形づくっていく戦略を示していく必要があると感じています。それほど多くのことはできませんので、あれもこれもではなくポイントを押さえた戦略でなければなりません。その実現においては、ボランティアや支援団体と培ってきたネットワークや経験を生かして、外部のプレイヤーを巻き込んでいくことが、これからの社会の中で地域が生き残っていくための一手段になると考えます。

 住まいの再建が進んでいる一方で、産業復興は遅れがちと指摘されています。とくに人口の流出が止まらないところでは、雇用力のある産業復興が急がれます。東北の基幹産業である農業・水産業については、単に震災前の状態に戻すのではなく、将来を見据えた創造的復興や抜本的な再構築を推進していくことを国等の方針として早い段階に示されました。現場では、浸水した農地の大区画化による生産コスト低減や水産加工施設の高度化を図るなど、従来型の産業構造から革新的システムへの転換が推進されています。しかし、震災前までの東北では、一次産業の比率は大きいものの生産性が低いため、容易に構造転換を果たせる力を持っているとは言い難い状況です。衰退していた産業に息吹を与えていくためには、段階的に推進できる身の丈に合ったビジネスモデルの構築が求められていると考えます。

 被災地では、縮小しても持続できる地域を創造していくための戦略として、非常に厳しい状況に太刀打ちできる地域政策の構築が求められています。その際、両輪の関係と言われている住まいと産業の復興を一体的に議論していく必要がありますが、残念ながら分離している感が強いです。立場の分け隔てなく、研究者や実践者が議論を重ねて、時代にあった地域政策を開発していけるように、理論と実践の統合を目指す本学会の果たす役割に期待しています。

2016年6月1日

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