「生物多様性の主流化」への遠い道のり

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飯島 明宏 (高崎経済大学)

2016年12月に生物多様性条約第13回締約国会議がメキシコで開催されてから1年が過ぎようとしている。この会合での中心テーマは「生物多様性の主流化」であった。生物多様性の保全と持続可能な利用の重要性が、国、地方自治体、事業者、NPO・NGO、国民などのさまざまな主体に広く認識され、それぞれの行動に反映されること・・・これが「生物多様性の主流化」である。2010年10月に採択された愛知目標(生物多様性の損失を止めるための20の目標)に掲げられた重要テーマでもあり、そこから起算すると7年の歳月が過ぎたことになる。日本国民の意識の中に、生物多様性はどの程度“主流化”されているのだろうか?

2018年度税制改正に向け、政府・与党が打ち出している「森林環境税」の創設の行方に筆者は注目している。「森林環境税」は、森を守るための費用を国民一人ひとりが税金の形で負担し合おうという制度である。森林生態系を構成する多種多様な植物は、光合成によって大気中の二酸化炭素を固定し、気候変動を緩和する。また、土壌に根を張ることで土砂の流出や山腹の崩壊を防止する機能も有する。森林土壌は雨水を一次貯蔵することで洪水の発生を防止し、逆に無降雨でも蓄えを放出することで水の供給を維持する水量調節の機能も有している。このような公益的機能を生み出す原資が森林の生物多様性であり、その恩恵は広く国民一人ひとりに及んでいる。よって、森林の保全にかかる費用を受益者に等しく求めようとする「森林環境税」の創設に対して、国民がどのような反応を示すのかを見れば、「生物多様性の主流化」の程度を推し量ることができそうである。

大変残念なことに、報道では「森林の少ない都市部に恩恵が少なく、不公平だ」などの声が取り上げられている。仮に森林の適正な管理が進まなかった場合に想定される洪水・浸水被害や水不足の発生がどこに及ぶかを考えれば、都市部に暮らす住民こそ、遠く離れた森林から多くの恩恵を受け取っていることに容易に気づけそうなものだが、そのことをまるで認知できていないような反応だ。生物多様性からもたらされるサービスの価値を国民が十分に理解できていない現状において、「生物多様性の主流化」はまだ遠いことのように思える。

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