介護・生活支援ロボットと地方創生・地方活性化

2016年8月1日

祖父江 かおり(人間総合科学大学)

 2016年6月10日、政府は介護施設に介護ロボットを導入することで介護報酬加算をする方針を表明した。その目的は日常生活援助を遂行する介護士の負担軽減を図ることである1)。福祉用具・器具の利用意向は内閣府の報告書で「積極的に使用したいと思う」と「使用したいと思う」の合計は67.7%である。介護ロボット等の使用について、比較的前向きな見解を持っているといえる。

 一方で「あまり使用したくない」と「全く使用したいと思わない」の合計は17.2%であり、その理由として「面倒くさい」28.3%、「資金がない」25.2%となっている2)。介護報酬加算の対象となることにより、使用者の経済的損失を可能な限り抑制し、介護ロボットの普及につながると推察される。しかし、介護ロボットの普及には介護現場関係者のコンセンサスを得る必要がある。そのため介護ロボットの普及展開には、現場と開発者の共創が緊要である注1)

 多くの先行文献で地方創生の議論がなされている3)4)5)。これらの文献の趣旨は、持続可能な社会を維持するための町おこしの各種取組み、地方産業・事業政策への提言、ご当地キャラクターを用いた地域ブランドの宣伝、地域オリジナル農作物の開発と出荷、図書館の有効活用や地方活性化のイデオロギー論といったものである。

 経済産業省等による報告書では、製造業の重要性を提唱している。製造業の国内生産額の産業別構成比は30.8%と非常に高く、製造業は他産業への波及効果が大きい注2)。また、製造業は地方に集積しており、地方の雇用・所得の源泉となっている。このなかで静岡、愛知、滋賀、三重県は県民所得の高い県として列挙されている6)

 介護生活支援ロボットの製造開発者は地方の中小企業でもみられ、産学連携、地方大学の研究者による開発も多々みられる7)。地方総合特区でも介護生活支援機器の紹介が散見される。安倍内閣では稼ぐ力、生産性の向上と医療介護を成長市場とするために、ロボットの活用を提唱している8)。今後は地方創生、地方活性化策の1つとして介護ロボットの役割が期待される。

―注―
注1)開発段階から現場スタッフに十分に説明し、特許製品の事業化に到達しているものもある。
注2)全産業、製造業、サービス業の他産業への波及効果はそれぞれ1.93、2.13、1.62倍である。この波及効果とは1単位の最終需要が発生した際に、製造業の場合は2.13倍の生産波及があることをいう。

―参考文献―
1)産経新聞ニース電子版 2016年6月11日7:00配信 (2016年6月11日取得)
2)内閣府(2015)『高齢者の日常生活に関する意識調査』
3)日本地域政策学会(2016)『日本地域政策研究』第16号
4)宮副謙司(2014)『地域活性化マーケティング』同友館
5)十名直喜(2015)『地域創生の産業システム―もの・ひと・まちづくりの技と文化―』
6)経済産業省・厚生労働省・文部科学省(2015)『平成26年度 ものづくり白書』
7)UBM Canon Japan G.K.(2016)『Medtec公式ガイドブック 医療機器業界サプライヤーソースブック』
2016年4月20(水)~4月22日(金) @東京ビックサイト
8)内閣府(2014)『「日本再興戦略」改定2014-未来への挑戦-』(2016年5月25日取得)

謝辞 日本地域政策研究・第16号をご執筆の諸先生方からは、貴重な学びを賜り深く感謝申し上げます。

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