「消滅可能性自治体」から考える地方圏の将来

2024年6月3日

佐藤 英人 (高崎経済大学)

 このほど民間の有識者で構成される「人口戦略会議」(議長:三村明夫氏、副議長:増田寛也氏)が、『令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート』と『全国1,729自治体の持続可能性分析結果リスト』を公表した。2014年に「日本創成会議」(座長:増田寛也氏)が「消滅可能性都市」を公表し、物議を醸してから10年が経過した後のレポートとあって、マスメディアで大きく取り上げられている。今回のレポートによれば、2020年から2050年までに20~39歳の女性が半減し、「最終的には消滅する可能性がある」自治体は、全国の4割にあたる744自治体にのぼるという。

 言うまでもなく、このレポートには大きな問題があり、その最たるは広域合併をおこなった自治体で旧町村の状況が考慮されておらず、地域固有の実情が十分踏まえられていない。いわば杓子定規の結果にもかかわらず、今回もまた、結果のみが独り歩きして一喜一憂する自治体がみられた。換言すれば、それだけ多くの自治体が将来の人口減少に危機感を抱いている現れと言えるだろう。

 確かに国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(令和5年推計)』によれば、日本の総人口は2070年頃に8,700万人程度まで減少するとされ、死亡数の増加と出生数の減少が相まって、今後は毎年100万人を超える人口が日本から消失していくことになる。2040年以降は地方圏のみならず、東京を含む大都市圏も人口の自然減に直面して、時間の差こそあれ、地方圏にせよ、大都市圏にせよ、人口減少が不可避であることに変わりはない。

 このような状況を鑑みれば、もはや常住人口の増減のみで地域の優劣を論ずること自体、意味をなさないのではなかろうか。人々がその土地に根付き定住・定着することは、地域の新たな担い手を育む上で極めて重要であることに疑いない。しかしながら、地域の担い手が必ずしもその土地に常住しなければならないという所以もないのである。むしろ、時折、域外から訪れる人々が、郷土の祭りを運営したり、文化や歴史を継承したりすることは、その地域を支える貴重な担い手たらしめる。近年、さまざまな研究分野で分析が進む交流人口や関係人口は、まさにその好例といえよう。

 加えて、先般のコロナ禍によってテレワークが一定の業種業態で定着した。テレコミュニケーションを通じて時間と距離にとらわれない意思疎通が可能になれば、これまで定住して対面でなければ成り立たなかった活動が、地理的に離れていても成り立つことになる。無論、テレコミュニケーションの普及によって人口減少に歯止めがかかるといった、安易な技術決定論的な発想は厳に慎むべきではあるが、居住地を一箇所に固定せず、状況に応じて居住地を変える多拠点居住(Multi-habitation)は、情報通信技術の発達が根底をなす新しいライフスタイルとして注目される。

 先日公表された総務省『令和5年住宅・土地統計調査』の速報値によれば、全国の空き家率は前回調査と比較して0.2ポイント上昇して過去最高の13.8%(900万戸)であった。とりわけ、地方圏における空き家率の上昇は深刻の度合いを強めているが、上述した多拠点居住を試みる世帯が増えるにつれて、長期間不在の住宅に管理の手が入り、空き家問題の是正に一役買う可能性が考えられる。多拠点居住もその土地に定住しているわけではない。仕事であったり、介護であったり、趣味や気分転換などで、その地域に関わりを持つ人々が増えれば、交流人口や関係人口の増加につながるかもしれない。過度に誇張されたレポートに惑わされることなく、将来的な人口減少は所与のものと認識しながら、冷静な眼を持って地方圏の将来を見据えるべきではなかろうか。

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