休眠預金の有効活用を考える

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青木 孝弘 (宮城大学)

 日本国内で最初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから2年半経った今も第7波の渦中にあり、一日あたりの感染者が過去最高を更新する日々が続いている。さらにウクライナ情勢に伴う世界的な原油価格と物価高騰の影響を受け、事業者だけではなく市民生活も苦境に立たされている。今もってポストコロナの社会が見通せない困難な状況にあるが、政府が緊急事態宣言を発した直後の2020年5月『地域政策に一言』掲載の拙文において、コロナ後の地域活性の嚆矢として紹介した休眠預金活用事業に関する新たな知見を、ここで共有させて頂きたい。

 2018年1月に施行された「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(休眠預金等活用法)」により、10年以上の取引がないいわゆる休眠預金を民間公益活動の促進のための資金源として活用することが可能となった。その活用の枠組みは3段階で構成されており、(1)金融機関から休眠預金を移管された預金保険機構が、指定活用団体である日本民間公益活動連携機構(JANPIA)に資金を交付する、(2)JANPIAが資金分配団体を公募して助成先を選定する、(3)資金分配団体が民間公益活動を行う実行団体を選定して助成する、という流れである。また事業の実効性、持続性を高めるために助成期間が最長3年可能であること、事業の透明性や成果の可視化を図るために社会的インパクト評価が求められることなどの特徴がある。

 実質的に2019年度から開始した休眠預金の活用は、奇しくもコロナ禍による生活困難や地域活力の低下といった新たな支援ニーズへも迅速に対応することが可能となった。JANPIAの資料(2021年12月)によれば、2019年度から2021年度の助成実績は、コロナ緊急支援を含む94事業、約123億円であり、延べ140の資金分配団体と613の実行団体がこれを実行した。

 その一例として「キャッシュフォーワークによる若者支援」事業がある。これはコロナ禍で収入が減少し生活困窮に陥った若者に、新たな雇用環境への移行支援や地域の雇用転換を推進することが企図されている。実行団体の一つ、宮城県内で若者支援に取組む認定NPO法人Switchでは、農業とIT関連の2分野で地域ニーズを踏まえたキャッシュフォーワークに着手した。東日本大震災後、東北地方では生産農家数は大きく減少する一方、農業生産法人は増加を続けており、コロナ禍による外国人材の減少により深刻な人材不足に直面している。そこで飲食業など就労先がコロナ禍の影響を大きく受けた若者に対して、ホップや野菜栽培などに取組む一般社団法人や農業法人と連携して就労プログラムを展開し、就農に向けてのスキル育成とマッチングとに取組んでいる。またコロナ禍でブライダル関連業界を雇止めになった若者に対しては、本人たちの映像関連スキルを活かしたIT起業支援をするなど、若者たちが持っている能力や可能性を引き出しながら、地域社会の新たなニーズに対応する質の高い働き方の創出を目指している。

 このように制度としての休眠預金活用のスタートアップは、コロナ緊急支援への柔軟な対応を含めて着実な成果をあげていると一定の評価ができよう。それでは、さらに有効に活用されるための課題は何だろうか。休眠預金活用は施行から5年後に見直すことになっており、JANPIAと資金分配団体を中心に業務改善プロジェクトチームが結成され、評価や制度関連など多方面で課題が洗い出されているところであるが、ここでは3点を指摘したい。

 第一に空白県の存在である。特に宮城県を除く東北地方が資金分配団体、実行団体とも実績が無いかあるいは薄い。これは、いわゆるNPOの中間支援機能が弱いこととも関連している。一方、地域にコミュニティ財団が存在し、資金と活動が循環している長野県、愛知県、滋賀県、佐賀県などは活発な活用が行われている。このままでは二極化は加速する一方であり、空白県における資金分配団体の発掘、育成が喫緊の課題といえる。その点において、2022年4月に金融機関として初めて資金分配団体に選定された京都北都信用金庫に続くような地域金融機関の登場を切望する。

 第二に休眠預金の投融資への展開である。投融資が中心のイギリスとは違い、日本では現在助成しか行われていないが、2022年度休眠預金等交付金活用推進基本計画においては、休眠預金を活用した貸付けや出資について一点の結論を示すとされている。助成を受けた実行団体の中には、融資を受けてさらに事業を発展させたいというニーズもあり、休眠預金を先駆けとしてソーシャル・セクターの新たな資金ニーズの掘り起こしに期待がかかる。

 第三に地域内での様々な連携のさらなる促進である。これまでの休眠預金活用においても、資金分配団体レベルでコンソーシャムを結成したり、実行団体レベルでも連携してコレクティブインパクトを最大化する取組みが企図され成果をあげているが、今後は自治体や大学、金融機関、地域企業なども含めて持続可能な地域をONE TEAMとして創りあげる仕組みと努力に一層期待したい。

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