「地域の担い手」のすそ野を広げる

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林 健一 (中央学院大学)

 新学期がスタートし、1カ月が経過した。3月末には卒業生を送り出し、4月早々には新入生を迎えた。毎年繰り返される風景ではあるが、こうした慌ただしさが落ち着くのも、ゴールデンウイーク明けである。
 ガイダンス的な時期を過ぎ、学生の不調や不安が顕在化する時期でもある。こうした学生へのサポートも手を抜けないが、自身の授業運営に改めて向き合う時期でもあると感じている。
 著者の所属する学部は、現代を生き抜くための幅広い教養を身につけたジェネラリスト(多様な知識を有する人)の育成をコンセプトとしている。このため、文学、文化など人文科学系志向の強い学生たちが中心となっている。
 学部を選択した時点で、必ずしも「地域」や「政策」に関心があるとは言えない学生たちに、地域社会の問題とその解決を考察する地域政策学に興味関心をもってもらい、その魅力を伝えることは思った以上に難しく、その悩みは深く尽きない。著者の力量不足、経験不足といわれれば、それまでであるが、舞台裏では、講義時間直前まで授業内容や資料作成に頭を抱えることが、実はしばしばある。

 万能薬は中々見出せないでいるが、ゼミ生たちが暮らしている市町村の広報誌(新年度予算特集号)を持ち寄ってもらい、比較するというものが有望そうである。
 これは「自治体予算の『推し』を探そう」と称し、2年次の演習初期に実施している。具体的には、首長の新年度予算方針から重点事項を抜き出して比較したり、各政策分野における新規事業の類似点と相違点を探し出したりするなど、グループワークと個人ワークを組み合わせて、設定したテーマの分析に取り組んでもらっている。「マチイロ」というアプリもあるが、出来るだけ自分の住んでいる紙媒体の広報誌により作業を進めてもらっている。
 厳密な意味での地方財政分析とはとうてい言えないが、「市役所だから同じ仕事をしているかと思ったが、ずいぶん力を入れている点が違う」「A市の政策よりもB市の政策の方が魅力的に見える」「広報紙の作り込みも違う」などの感想も少しずつ聞こえ始めている。
 多数の失敗講義がある中で、個人的には、「地域」や「政策」に目を向けてもらうきっかけづくりとなりそうな予感がある。

 シティズンシップ教育をめぐる最近の議論では、デジタルを自律的に利活用して多様な社会活動に参画し、よりよいデジタル社会を形成するための「デジタル・シティズンシップ」を育む教育が求められているとの文脈での検討が進展している。
 こうした教育を受けた児童・生徒は、やがて大学へと進学してくるが、学士教育課程を担う大学人として、どの様な新しい学びを準備すべきなのであろうか。
 地域の活性化や地域課題の解決に取り組む担い手(人材)のすそ野を広げていく。新たな悩みではあるが、「春の夢」とならぬよう自戒し、新年度の講義、演習を創り出していきたい。

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