「地域らしさ」を考える

2020年3月2日

田中 尚人 (熊本大学熊本創生推進機構)

もともと土木史や景観まちづくりを専門とする工学部の教員であった私が,「地域政策」の分野に関わりはじめたのは,熊本大学に赴任した四年目,2010年(平成12)に熊本大学政策創造研究教育センター(当時)に異動になったことがきっかけでした.それまでは,「まちづくり」,「住民参加」,「合意形成」のような文脈で地域に関わっていた私は,「政策」という言葉にとても魅力を感じていました.私は土木分野をフィールドにしていますが,専門は景観や歴史といった社会科学に近い分野であり,熊本大学に赴任してからは専ら文化的景観という文化財を扱ってきました.それ以外にも土木遺産と呼ばれる,近代化遺産の範疇の文化財をまちづくりに活かす活動も行っており,土木・建設行政より,文化財行政,もしくは都市計画行政の方々と関わることが多かったのです.

地域政策という言葉を意識しはじめたと同時に,フランスに留学させて頂いた際に学んだことと合わせて考えたのは,local identity,言い換えるならば「地域らしさ」の重要性でした.文化的景観は,その地域固有の本質的価値を,自然環境,歴史,生活・生業から考える文化財で,フランスではcultural landscape と呼ばれます.この地域固有の価値に,地域住民,基礎自治体などさまざまなステークホルダーが気づき,ともに育んでいく持続可能な地域づくりが,文化的景観保全には必須です.

21世紀初頭に人口減少社会,超高齢社会を迎えた日本では,それまでの地方分権でも重要視されてきた地域の個性にさらに磨きをかけ,地方創生,地域創生の資源とすることが議論されるようになりました.私が熊本県内の地域に関わる時も,地方創生,地域おこし,というキーワードが用いられるようになり,最近では国連の目標にも使われているSDGsもよく使われています.

私は,このSDGsの議論のなかで気に入っているのは「誰も取り残さない,全ての人に役割がある」という社会的包摂の概念です.熊本地震を契機に,子どもから大人,年配の方々まで,それまで繋がることのなかったチャンネルが繋がり,集うことのなかった人々が集う場が,熊本では生まれています.金子みすずさんがおっしゃった「みんな違って,みんないい」という相互認証のもと,誰もが自分のふるさとの良さを認め合い,まちづくり,地域おこしを自分事として取り組むことができる社会づくり,そんな地域の取り組みを支援できるような地域政策について,これからも考え,実践して参りたいと思います.

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