「物言うボランティア」が支える地域政策

2026年2月2日

渡部 聡子 (北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院) 

 私はこれまで、ドイツのボランティア支援政策、なかでも長期間フルタイムで活動するボランティア活動者を支える制度的基盤について研究をすすめてきました。活動者に社会保障と定期的な研修を提供し、経済的に支援する「ボランティア制度」は、それ自体、興味深い研究テーマでしたが、一方で、なぜ日本でこの制度について研究するのかを意識できるようになるまでには長い時間を要しました。一つのきっかけとなったのが、かつて担当していた授業で「母は家事も育児もボランティアもしているのに、会社で働く父が威張っているのはなぜか、それを知りたくて受講した」、との言葉を得たことでした。

 ボランティア活動者個人の支援政策について考えることは、個人の「自発的」な選択にもとづくさまざまな活動を、その背景にある構造的課題も含めて考え、尊重することです。ドイツでは、ボランティアが民主主義的な社会に不可欠な存在として、国家・社会の次元で理解された結果、ボランティアとして活動することそのものが「権利」と認識されました。その政治的理念を基盤として、連邦と州の責任のもと、誰もが参加できる制度の構築と、活動者の社会的安全の保障が進められてきました。近著『権利としてのボランティア』(※1)では、なぜ戦後ドイツでボランティア制度が成立し、継続してきたのかをその歴史から紐解くとともに、民主主義教育や社会的包摂といった理想に反し、数々の批判と難題に直面している政策の現状について論じました。

 徴兵制との関連をはじめ、日独の歴史的、政治的状況は大きく異なり、同列に比較できるものではありません。ボランティア制度が直面するさまざまな課題に鑑みると、理想的、模範的な政策と言うこともできません。それでも一定の期間、ボランティア個人に経済的、社会的に安定した地位を確保する政策の蓄積は、自らの待遇や不安定な地位について問題提起する「物言うボランティア」を日常の風景としてきました。たとえば、連邦政府の2024年度予算案では当初、ボランティア制度関連予算の大幅な削減が予定されていましたが、最終的には全ての削減案が撤廃されました。その際、連邦議会における議論に影響を及ぼしたのが、ボランティア制度の参加者・参加経験者による公開請願の提出です。この請願が9万名を超える署名を集めたことにより、ボランティア制度の参加経験者は連邦議会請願委員会の公聴会で意見を述べる機会を得ました。さらに全国各地でデモや広報活動、連邦議会議員への働きかけが活発におこなわれました(※2)。

 日本でもあらゆる政策分野でボランティアが活躍し、地域を支えています。しかし、「自発的」=「やりたくてやっている」、そうであれば自己責任、と個人の次元で理解する社会では、想定外の事態や不当な扱い、身体的・精神的な疲労、経済的問題に直面した時に、多くのボランティアが沈黙し、活動の場から退出してしまうことが懸念されます。ボランティアであっても、ボランティアだからこそ、堂々と国家と社会の責任を問う「物言うボランティア」の姿から得られる示唆は大きく、持続可能な地域政策を議論するに際しても、不可欠な視座と考えております。

 
※1 渡部聡子(2025)『権利としてのボランティア  ― ドイツ「参加政策」の挑戦 ― 』岩波書店
※2 渡部聡子(2026)「ボランティア支援政策をめぐる政治的合意の変化 ― 2024年法改正とドイツ社会 ―」『ヨーロッパ研究』第25号, 東京大学大学院総合文化研究科グローバル地域研究機構・ドイツ・ヨーロッパ研究センター

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