数年前より、「関係人口」が学界内外で注目されている。それは、農村地域などの地方部に対して、観光人口より深く、定住人口より浅い係わりを持つ者を指している。
なぜ、この関係人口が話題となりはじめたのであろうか。そこには、自治体をはじめとする移住政策の担当者が、「移住する」-「移住しない」というと二元論で都市住民を見がちだったことへの反省がある。その中間には様々な存在形態があり、これこそが関係人口である。それに気がつけば、いきなり無関心層に移住を呼びかけるよりも、まずは関係人口を対象とし、さらに無関心層から関係人口を作るような階段状のプロセス(「関わりの階段」)を設定する政策的取り組みの必要性が認識できる。
しかし、関係人口をこのように移住候補者としてのみ捉えてしまうと、彼らの真の多様性を見失ってしまう。この「関わりの階段」を最後まで登らずに、一箇所にとどまる若者もいる。移住は念頭にないが、頻繁にむらを訪ねて、地域貢献活動に汗を流す若者である。彼らにとって、地域への関わりとは、必ずしもそれを深める方向だけに動くものではなく、「移住せずに応援する」という選択肢がある。そして、その応援の方法は、SNSなどに手段により拡がっている。
このことからさらに踏み込めば、関係人口は、都市と地方を繋ぐ新しい社会を実現するプレイヤーになると考えられる。これは2つの方向から説明ができる。ひとつは、コロナ禍で顕在化した日本社会の深層にある分断傾向なかでの位置づけである。コロナ禍では、感染拡大が進む中で、感染者-非感染者、若者-高齢者に加えて、都市住民-地方住民など、縦横の分断と対立が生まれた。そして、それらが、放置され、根深くなり、社会が脆くなっている。そうした中で、この亀裂を埋める動きとして、農産物を利用した産地からの困窮学生支援等に加えて、販路を失った農産物へ「応援消費」など地域間の橋渡し行動が注目されている。大きく言えば、関係人口もそのような役割を担っており、その活動は都市と農村等の地方部が直接結びついていることを人々に実感させるものとなり、小さいながら分断拡大への抵抗力となる。
もうひとつは経済のグローバリゼーションの中で位置づけである。一部の経済関係者は、グローバル経済圏とローカル経済圏の分断を論じ、「グローバル経済圏が好調でも、そう簡単にローカル経済圏が潤わない」として、いわゆる「トリクルダウン」を否定する。これは、農村を含む国内地方圏が、グローバル経済の中で位置づけを失ったかのような議論であり、筆者はそれを「農村の隔絶地域化」と表現する。グローバル経済から見れば国土の中で地方の必要性が薄れ、切り捨てられやすい環境が生み出されていると言えよう。そうした時に、都市から地方に関係を探り、行動を起こす人々の存在は重要である。
つまり、関係人口は、ポスト・コロナ社会において、そしてグローバリゼーションがさらに進む時代において、地域間の分断を埋め、都市と農村が共生する社会を形成する担い手として機能している。このように考えると、関係人口は地域政策研究においてもますます注目される存在ではないだろうか。