わが国では、6世紀の仏教伝来以来、コミュニティーが形成されている地域には「お寺(寺院)」が存在しており、今もなお、お寺の数の方がコンビニエンスストアーの数を上回るとさえ言われています。しかし、近年、地域の過疎化の進展とともに、檀家数が減少し、お寺が存続の危機に瀕しています。
歴史的に、わが国において、地域におけるお寺の果たす役割は檀家に対する宗教的な施設としてだけでなく、「集会所」として様々な地域のことに関する協議の場として存在し、また、境内では「盆踊り」などのイベント開催の場として、人と人の「つながり」がある地域のコミュニケーション形成に対して大きな役割を果たしています。特に、江戸時代では、寺は「寺子屋」と呼ばれる教育施設(学校)の役割も担い、子どもたちに「読み・書き・そろばん(計算)」の教育を行っていました。そして、明治、大正、昭和、平成の時代を経て、地域の都市化と過疎化は伝統的な地域におけるお寺の役割を縮小させ、人と人の「つながり」を創り出す場が減り、お寺はないが学校はある地域を生み出しました。
しかし、21世紀に入り、学校がお寺に代わって「つながり」を作る役割を担うことが可能になってきました。なぜならば、2004年の教育改革によって、主に義務教育の学校において「学校運営協議会(コミュニティースクール)」の設置が可能となったからです。コミュニティースクールは、市区町村教育委員会が指定した学校に学校運営協議会を設置し、地域住民と保護者が学校運営や教育活動に関する意見を学校に対して述べるだけでなく、学校の教育支援の企画・参画を行い、地域住民による地域の子どもたちに対する教育を行っていく学校運営制度です。地域住民の外国人が英語科の授業に、引退した高齢者が家庭科の授業にアシスタントとして教育に携わっている例もあります。また、寺院のない地域における「祭り」などの新たな伝統行事を学校の運動場で始め、地域住民が一同に会すイベントの開催もコミュニティースクールでは行っています。
地域住民を取り込んで、親と学校の信頼関係を再構築し、地域による教育を行う教育改革がコミュニティースクールの目的です。お寺のない地域において、住民が地域に関心を持つきっかけを作り、「つながり」を作る効果を学校が生み出しています。檀家の減少によって、お寺が消滅した地域においても、わが国では義務教育は存続し、学校は学区の拡大があったとしても存続します。ポスト平成の人口減少に直面する新たな時代では、地域の中心であったお寺に代わり、現代の「寺子屋」としての「学校」が人と人との「つながり」を結び付ける地域の中心の役割を果たし、学校が地域の中心を担うと私は考えています。