これからの地域医療のあり方 ・・・ GP×2のススメ

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町田 修三 (高崎健康福祉大学)

GP×2とかGP2なんていうと、何のことかと思うでしょう。

医療の分野でGPといえば、General Practitioner のことで、日本語では「一般医」、「家庭医」、「総合診療医」などと訳されることが多く、地域に密着して地域住民の一次医療のほとんどすべてに対応する一般開業医を指します。GPといえばイギリスが有名ですが、GP制はイギリスだけでなく、先進国の多くの国で取り入れられています。これらの国では、人々はケガをしたり体の不調を感じたりした時、まず自分たちがあらかじめ登録したGPを受診します。GPは総合診療のトレーニングを受けていますので、住民の医療ニーズのかなりの部分をカバーすることができます。そしてGPがより精密な検査が必要だとか、重篤な疾病の可能性が疑われると判断した場合、総合病院や専門病院に紹介されます。ここでは、GP ⇒ 病院という経路が一貫しており、保険証さえあればどの医療機関でも受診できるという日本のフリーアクセス制とはだいぶ異なった制度です。

GP制のもとでは、GPは登録住民の体質や健康状態を熟知しているので住民には安心感がありますし、必要ならばGPが専門の病院を紹介してくれるので、日本のように不確かな口コミを頼りに病院を探すことは不要です。日本で問題になっている開業医や病院の「ハシゴ受診」や「重複検査」、「重複投薬」を避けることもできます。そんなこともあってか、近年では日本でもGP制を取り入れようとする議論が徐々に活発化しており、例えば4月15日の衆院厚生労働委員会で岸田首相は「身近で頼りになるかかりつけ医の重要性は政府においてもあらためて強く認識している。」とかかりつけ医の制度化を視野に入れているような発言をしています。

ただし、現行の日本の開業医のほとんどは特定の診療科を標榜していますのでGPとは言えません。海外のGPのようにあらゆる医療ケアに対応することはまず不可能です。日本医師会や厚労省がGPや家庭医という呼称を用いず、かかりつけ医ということばを使っているのもそのあたりの事情があるのだろうと思われます。いずれにしても、岸田首相の発言にも見られるように、日本は医療のフリーアクセスを改め、将来的にGP制に近いような制度を目指していこうという方向性は読み取れます。大学の医学部や卒後研修の過程では、総合診療の担い手を養成するカリキュラムが導入されるようになりましたし、かかりつけ医に診療報酬もつくようにもなりました。ただ総合診療医が多数を占めるようになるにはまだ相当の時間がかかりますので、現状の開業医をうまく活用しながら、日本版GP制であるかかりつけ医制を構築していくことになりそうです。

都市部であれば、内科医をベースにそれぞれの診療科で行きつけの医院を持つという対応が可能でしょうが、問題は地域医療です。そもそも地域ベースでは十分な数の開業医がおりません。そこでお勧めしたいのが、複数の医師が共同で診療所を開業するグループプラクティス(Group Practice)という形態です。それぞれの医師の強みを補完し合うことでGPのように地域の一次医療に当たることが可能で、十分にかかりつけ医の役割を果たすことができます。これがまさにGPのGP(Group Practice)、つまりGP×2です。

医師が地域で開業したがらない主な理由には、「協力し合える医師がいない」、「子供の教育環境」、「配偶者の意向」、「医師本人のライフスタイル」、「研究ができない」などがありますが、GP×2ならばそれらのほとんどを解消することができます。例えば、自宅は都市部に置きそこからGP診療所に通ってくるようにすれば良いのです。休日の出勤が必要ならば交代で勤務すれば良いですし、主治医・副主治医制が取れるようになれば、平日でも交代で休むこともできるでしょう。在宅医療への対応も容易になります。近い将来、車の自動運転が普及すれば、通勤時間を睡眠不測の解消や自分の勉強・研究に充てることも可能になるかもしれません。

日本でこうしたかかりつけ医の制度のもと、地域医療に携わる医師が増え、地域の健康管理、疾病予防が進めば、仮にフリーアクセスを放棄することになったとしても、地域医療の質は上がると思います。

GP×2という考えはいかがでしょうか?

      *注 GP×2は私の造語で、一般用語ではありません。

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