これからの離島振興の在り方~二次離島から考える

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石田 聖 (長崎県立大学)

 日本全国で人口減少が問題視されているが、とりわけ離島は本土以上に人口減少率が高い。しかし、近年の国土安全保障や排他的経済水域等の問題から、有人国境離島地域は、国土保全にとって不可欠な存在として認識され、政策的にも重要度を増しつつある。
 長崎県は日本一の有人離島数を誇り、私が所属する大学でも離島の特色を活かした研究教育の実践が行われている。地方消滅論のイメージから、近年の離島地域は人口減少と高齢化が本土と比較しても加速度的に進み、地域の力が衰退していると思われがちである。しかし、実際に島を訪れると地域課題に向き合う力や、それを応援しようとする島内外との交流は、小規模な離島でこそ先鋭的に表れるのではないかと思わされることも多い。

 人口データを見る限り減少は続いているが、私が昨年度から学生教育の一環でフィールドワークを行っている長崎県五島市の奈留島はまさにそのような場所であった。島は船でしか移動することのできない、いわゆる「二次離島」であり、最盛期1960年に9,268人の人口がいたが、現在、2,000人未満となっている。人口減少は深刻だが、しまの若い世代、移住者、まちづくり協議会、NPO法人等が中心となって新しい動きも出てきている。例えば、住民と移住者が交流できる場や拠点をゲストハウス、コミュニティカフェ、キャンプなど居場所づくりの形を実現している。また、住民だけでなく移住者が地域のさまざまな組織に所属し、複層的なネットワークを築き、島内外での交流や具体的な課題解決へと結びつけている。
 他方で、五島市では、過去5年間ほど都市部からの若い世代を中心とした移住が活発化し、高級リゾートホテルなどの参入も相次いでいる。しかし、そうした状況は特定地域に集中している現状がある。五島市でいえば、もともと人口規模が多く、インフラも整備されている福江島への移住者が多くを占めるため、離島といってもそれぞれに違いや差がある。実際に、離島地域を訪れた学生がよく口にするのが、「島ごとでかなり状況が異なる」「しま格差」などといった言葉である。

 近年、注目される「関係人口」という視点では、大学と離島地域との連携では、若者が起点となり、島民との交流、地域資源の発見、課題解決などのさまざまな取り組みが期待される。これまでに私の大学でも学生と離島との交流を通じて、島内企業と連携した商品開発、マップづくり、環境教育、交流イベントなど若者世代の視点を活かした具体的なアクションにつながったケースもある。上記のような産官学連携は離島地域で広がりを見せる一方で、課題も多い。こうした連携はインフォーマルな関係にとどまり、しかもそれが固定化する傾向もある。長崎県立大学の場合も、離島を舞台とした教育実践も公立大学の設置自治体として長崎県行政の方針による影響は少なくない。設置自治体主導のプラットフォームは、一定の効果を発揮しつつも、多くは誕生の経緯から合目的になる傾向も強い。
 学生たちも事前に設定された課題に取り組むことは得意でも、毎年似たようなアクティビティが繰り返されるとマンネリ化し、離島地域との連携は形骸化するおそれがある。時には、地域の主体性を協調しながらも、時に国や地方自治体の補助金交付条件に合わせて形式的な制度設計づくりになる可能性もあり、離島との連携に軸を置くプラットフォームが本来志向する創発的な価値創出に至らない可能性もある。

 離島に限った話ではないが、縮減社会における地域づくりにおいて、住んでいる人間だけでやっていくものではないという発想の切り替え、その土地に「住んでいない人」をいかに、地域のさまざまな課題解決を行う具体的活動に巻き込んでいけるかは、最近では「関係人口」の側面からも注目されている。そこでの主体は、行政、企業、個人、非営利組織など多様であり、産業や観光振興、福祉、教育、地域コミュニティ形成など幅広い分野があり、多様な主体が組織間の垣根を越えて協働するケースが多い。人口規模がより少ない小規模な離島地域においては、それが顕著に表れてくると考えられる。

 ここで紹介した五島市奈留島だけでなく、離島地域では、島の維持・活性化を目指して多くの施策を実施してきた。しかし、これまでの研究も都市部からの移住者や観光客等に焦点を当てたものが多く、島嶼間の関係、二次離島のような小規模離島への着目は決して多くはなはなかった。アクセスが困難な二次離島や小規模離島において、今後さらに人口減少が進み、地域コミュニティの弱体化が予想される中で、周辺の離島間での相互依存や補完関係といった関係性といった側面への着目は、より重要性を増していくとも考えられる。
 国境離島地域の場合、国土安全保障の観点からも、住民が持続的な経済活動を行い、島を維持していくためには、さらなる知恵や協働が不可欠であろう。2022年11月に改正された離島振興法も2023年4月から施行され、期限が10年間延長された。この改正離島振興法では、「地域の実情に応じた再生可能エネルギーの活用」「小規模離島への配慮」など、多くの規定が新設・拡充され、離島地域への支援の充実が期待されるところである。

 本土より縮減著しい離島地域における課題の解決は、人口減少・衰退傾向にある日本各地ひいてはグローバルな課題解決に貢献しうるため、その優良事例を横展開させ、他地域に波及・応用させていこうといった言説がしばしば聞かれる。しかし、具体的に離島地域での新たな取り組み、実践事例がどの程度他地域に波及、応用されているかについて、学術的にも十分にそのインパクトが検証・可視化されているとは言い難い。「関係人口」も注目を集めているが、単に数の問題だけはなく、しまの内外で積極的にかかわるプレイヤーの関与のあり方や質を問い直し、今後どのように離島を維持・活性化させていくかを考えていく必要があるだろう。

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