オーストラリアから日本の中心市街地活性化を考える

2018年11月1日

安達 義通 (山梨県立大学)

現在、学外(海外)研修でオーストラリアのシドニーに在住していますので、こちらで感じていることに引きつけて、中心市街地の活性化について論じてみたいと思います。

周知のように、我が国の地方都市における大きな問題のひとつに「中心市街地の衰退」があります。その大きな理由のひとつとして、大型ショッピングセンターの郊外への進出があげられます。オーストラリアには、大型店の中心市街地への立地を規制するような法制度が存在しないため、駅周辺にモール型の大型ショッピングセンターが多く立地しています。

現在、私の住んでいるパラマタ市(シドニー中心部から西へ23㎞)のパラマタ駅前南側にも商業施設面積137,407 m2を有する巨大なショッピングセンターが立地しています。例えば、山梨県における最大のショッピングセンター「イオン甲府昭和」の集客施設面積が70,000m2であることを考えると、その大きさが想像できると思われます。このショッピングセンターは、日本と同様、大人気で、連日多くの人で賑わっています。

従来、パラマタ市の中心市街地はパラマタ駅の北側でした。しかし、現在、駅南側への大型ショッピングセンターの立地・増床により、空き店舗が増加し、シャッター街化しています。つまり、パラマタの事例は、中心市街地への大型ショッピングセンターの進出が従来型の商店街を衰退に導いており、従って、本来の意味での中心市街地の活性化には繋がっていないことを示唆していると言えます。

チャツウッド(シドニー中心部から北へ10㎞)という街の中心市街地は異なった状況にあります。チャツウッドの商業は駅の東側ヴィクトリア・アーヴェニュー沿いに集積しているのですが、駅から800m以内に2つの大型ショッピングセンターが150mほど離れて立地しています。そしてその中間に、劇場、コンサートホール、図書館、芝生のオープンスペースを有した文化施設群が立地しています。また、2つの大型ショッピングセンターを有するヴィクトリア・アーヴェニュー沿いは、個人商店が連なる商店街が集積しています。このように諸施設がコンパクトに集積しつつも同一線上に分散した都市構造を有しているため、大型ショッピングセンターが顧客を囲い込むことなく、アーヴェニュー沿いを人が行き交い、個人商店からなる商店街がシャッター街化することなく、街全体が活況を呈しているように見えます。

この2つのケースから次のような仮説的な結論を導くことができるのではないしょうか?①大衆消費社会が高度化している今、先進国の郊外・地方都市においては、大型ショッピングセンターを拒否するのではなく、むしろ共存することによって、中心市街地を活性化に導くことができる。②(可能であれば、の話ではあるが)ただ大型ショッピングセンターを誘致すれば商店街が活性化するというわけではなく、地元商店(街)、ショッピングセンター、さらに文化施設、公共施設など様々な施設の立地を含めた全体の都市構造への配慮が不可欠である。③そういった意味では、新自由主義的な「規制緩和政策」ではなく、施設の立地誘導を促すような公共的な政策こそが重要なのではないか。

このように、海外で暮らすと、日本の地域政策を考えるとてもよい契機になります。

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