人口でみる地域政策

2021年5月6日

萩原 潤 (宮城大学)

日本人口は2011年以降一貫して減少傾向を示しており,2018年から2019年にかけて27万人以上が減少した。この減少幅は年々拡大しており,コロナ禍であった昨年から今年,そして今年から来年にかけては大幅な減少が予測される。海外からの移住が極端に少ない日本では子どもが生まれる以外に人口が増加する要因がなく,現在では出生数が現在の人口を維持できる数字(置き換え水準という)にほど遠い。少子化と呼ばれて久しいが,出生数がこの置き換え水準を下回ったのは1974年のことである。それから数十年が経過して初めて人口が減少したのである。ということは,今急激に出生数が回復して置き換え水準を越えたとしても,今後数十年は人口減少が続くことが予測される。実際に出生が回復するにしてもそのスピードはより緩やかであることを考えると,移民政策に大幅な変更がない限り,今世紀中に日本人が増加することはほぼ見込めないと考えた方が良い。

人口が減少していると聞いて,日本中すべての地域から一律に人が減っていっていると考えるかもしれない。しかし実態は異なり,都道府県別,あるいは市区町村別に見ると依然として人口が増加している地域もあれば,大幅な人口減少を経験している自治体もある。人口減少の進行度合いには格差がある。

地域における諸問題を解決する地域政策を考えるとき,人口にかんする情報は不可欠である。地域ごとに人口規模,年齢構造,そして将来の人口の見込みに違いがあるため,同じような課題でも地域によってその解決法は異なるはずである。地域政策学を構成する領域の一つに「環境」があるが,地域人口もその地域を取り巻く「環境」の一つであろう。したがってこれからの地域政策を考えるとき,その地域における人口の構成と今後の人口の予測(推測)を議論のベースとして持っていた方が良いのだろうと思う。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は市町村単位ではあるが将来人口推計を公表しているし,さらにGISと組み合わせて小地域における将来推計の取り組みもある。地域における取り組みを考えるときにこのような人口を分析するための知識とスキルを備えた人材がいることで,その地域で持続可能な取り組みになることが期待される。

大局的に見たとき,人口環境は今後減少の一途をたどっている。筆者が居住する宮城県を含めた東北6県は2015年の国勢調査で65年ぶりに900万人を下回った。「移住」「移民」「Uターン,Iターン,Jターン」に代表される人の移動を推し進める取り組みも多いが,それが地域の人口に影響を与えるほど大規模なものは少ない。これらのことを考慮すると,多くの地域で今後より多くのマンパワーを必要とするような拡大路線をとる取り組みは難しくなることが予測される。現在の地域における「人口環境」を適切に把握し,それに適応した政策を検討していくことが求められると考えられる。

以上のように今後の地域政策を考えるときに,最も基本的な環境変数の一つである地域人口を分析し,その結果を元に取り組みにかんする議論をする必要があり,そのための知識とスキルの集積が求められること,そして現実に日本人口は減少していて,多くの地域でも同様であるため,その環境に適した取り組みによって持続可能な社会が期待されることを本稿の結論としたい。

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