児童・生徒の「探究学習」を地域づくりにつなげるには

2024年11月1日

三橋 浩志 (文部科学省)

●時代は「探究学習」!
 「探究学習」が学校教育で話題になっている。2020年4月からスタートした現在の学習指導要領による授業は、「主体的で対話的な深い学び」の実現を目指している。また、2000年度から小中高校では、教科の枠組みを超えて児童・生徒が自ら課題を設定し解決する「総合的な学習の時間」が実施されてきたが、2020年度からは更に探究の要素が強くなっている。そして、高等学校では「総合的な探究の時間」と名称を変更しており、「地理探究」や「理数探究」など、探究を重視、志向した選択科目が新設された。
 一方、高等学校では「探究」を指向する学科・コースを設置する学校も増えている。例えば、福井県は県立高校25校のうち、8校に「探究創造科」や「探究特進科」などの探究系学科・コースが設置されている。全国でも、学科・コースとして「探究学習」をメインにしたカリキュラムを編成し、高校生活を送っている高校生が増えている。さらに、全校生徒の「探究活動」の成果を発表する「探究フェスティバル」、「17歳の卒業論文発表会」、「市長への提言発表会」などを開催している学校も多数みられる。まさに、時代は「探究学習」である。

●「探究学習」はなぜ必要なのか?
 では、なぜ、学校教育では「探究学習」が重視されているのか?それは、社会のグローバル化や生成系AIの進展などもあり、社会の変化を予想することが困難な時代になっているためである。従来の「基礎的知識を暗記し、その応用問題を解く」教育だけでは、児童・生徒が大人になった頃の予想できない社会で、生きていくことが難しい時代になっているためである。児童・生徒達が自ら課題に対する「問い」を立て、その「問い」に対する答えを自ら導き出すという「探究心」を発揮しながら、課題発見能力や問題解決力に必要な能力を育むための「探究学習」の経験を積み重ねることが、予測困難な社会で生きていくために不可欠な力になるからである。さらに、「探究学習」を通じて、情報の収集、整理、分析力に加えて、他者とのディスカッション力を高め、自らの考えを伝えることで、生涯にわたって「学びに向かう力」を身に着けることも重要になっているためである。

●「探究学習」を地域づくりにつなげるには
 このような「探究学習」、児童・生徒は、様々なテーマを教科横断的に学習しているが、地域の課題を調査し、地域の解決策を提言する地域政策に関するテーマは最も多いテーマである。「市長への提言」など、行政と一体になった「探究学習」も多数展開されている。児童・生徒が地域を見つめ直し、そこにある課題を「問い」として立て、分析、解決する学習を展開することで、「社会参画」の重要性に気づくことは、将来の地域づくりの担い手育成に極めて有効である。また、大人の視点に加えて、子どもの視点で地域を見つめることは、現在の地域政策に重要な視点を与えてくれる。児童・生徒の「探究学習」には、将来の担い手を大切にした「持続可能な地域づくり」の政策アイデアが満載である。
 一方、今や、入試問題は暗記だけでは解答できず、思考力や表現力を重視した問題が中心になっている。さらに、大学入試はペーパー試験の一般選抜による入学者比率は48%で、推薦入試と総合型選抜(AO入試)による入学者が50%を超えている。私立大学に限れば、推薦入試と総合型選抜(AO入試)による入学者は60%を超えており、「探究学習」による学びの成果は、生徒の進路保障の面でも重要になっている。「探究学習」に取組むことで学びを深めることが、大学入試にも直結している高校生も多い。従って、「探究学習」は生徒にとっても重要性が高まっている。
 しかし、「「探究学習」の取組は素晴らしく、児童・生徒は生き生きと活動しているが、ネット情報や知り合いへのインタビューをまとめただけの学習も多く、内容が無いよ」と揶揄されるケースも散見される。地域課題を探究するには、児童・生徒と教員の活動を行政や地域がしっかりとサポートする体制づくりが重要である。各小中高校での「探究学習」の「熱」を学校内で留めるのではなく、行政、地域住民、地域企業などが一体となって取組むことで、地域づくりにつなげることが求められている。

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