地域おこし協力隊制度による人口減少地域の継続性

2024年3月1日

石川 和男 (専修大学)

 最近の筆者の研究課題は、過疎地の住民生活の継続可能性を探ることである。コロナ禍となって以降は、聞き取り調査に応じてくれる人との距離を気にしながら取材してきた。また筆者が育った地域(愛媛県四国中央市)に帰省した折は、子どもの頃からの風景変化を悉に観察してきた。聞き取りでは「高齢化」「人口減少」「不便」という言葉が何度も登場し、帰省の際にもこれらの言葉を痛感する。以前から居住していた人たちが加齢しただけで、若年層が新しく居住することがない。こうした状況は、わが国で「地方」と呼ばれる場所ではほぼもれなく観察される。こうした状況は急に起こったわけではなく、予兆も含め、かなり以前からあった。それへの対応が後手に回っただけである。既に半世紀前には、過疎地の住民生活の継続性に対し政策的対応がされていたが、その本気度は現在とは異なっていた。

 最近、国による過疎地の住民生活の継続性について本気度を感じる政策が、2009年度に発足した「地域おこし協力隊制度(協力隊)」である。本制度は2023年度で15年目を迎えた。国による都市から地方への移住政策では、成果を上げている制度とされる。協力隊は、任期中に地域の課題解決を行うだけでなく、その任期終了後も活動自治体やその周辺地域に継続して居住し、開業・起業をはじめ、さまざまな職務や事業に取り組むことを期待した制度である。現在、任期終了後、約6割の協力隊経験者が活動地域やその周辺地域に居住している。こうした点からは政策の成果がうかがえる。

 協力隊員も20~30代の若年層が主であるため、自らの将来を展望できる地域を探し、協力隊に応募し、任地での業務に当たっている。ただ、任期のある業務であるため、その任期後は、将来の希望とともに不安が重なる。任期終了後は、活動自治体で隊員時代の業務とほぼ同様業務を遂行する者、自治体や非営利組織に採用され新たな業務に勤しむ者、農林漁業を本格的に開始し、地域資源を生かし開業・起業する者らが大半である。一方、任地から完全に離れる協力隊員もいる。この状況をどう理解し、政策の有効性を評価すればよいか。

 現在、協力隊員として活動している隊員は1万人弱であるが、最長3年の任期後についてやはり継続的にその動向を観察しなければならない。一般に短期的な政策成果は評価が公表されているが、長期的な評価はあまりない。協力隊制度は「元協力隊員」として、個人を追いかけ続けるにはさまざまな問題もあろう。なかには協力隊経験者という経歴の公表を嫌う人たちも存在するかもしれない。こうした点にはもちろん留意しながら、長期的な政策評価とそれによる修正や変更を継続していかなければならない。
 
 協力隊員数増加は、国の目標として数を追ってきた側面が強い。他方、各自治体では協力隊を募集し、任務を与え、任期終了後は、同自治体に本格的に移住・定住することを目指してきた。単に協力隊を人生の一時期、地方での活動を通して「自分探し」をする個人の問題ととらえるとその事例のみとなる。これらの収集は事例研究に堕し、移住・定住により地域を活性化し、持続可能社会の実現という大目標から遠ざかる。したがって、研究対象を協力隊員としながらも、多様なアプローチを一度整理する時期にきているように思われる。

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