地方創生の第1期が令和元年度で終わり、地方自治体は令和2年度から始まる第2期の地方版総合戦略の策定に追われている。総合戦略の策定にあたっては、目標を数値目標KPIにまで落として示し、その達成を計画サイクルで追求していくことが、求められている。人口の増加と言った基本目標に対応したKPIで掲げられた数値は、地域の実情を示すものというより、地域政策の達成すべき、達成の成否が測られる目標となる。例えばKPIとしては、「空き家情報バンク」の利用者数、「女性の合計特殊出生率」の数値といったものが用いられる。
ここで期待されているのは、エビデンスに基づく地域政策の確立である。エビデンス・ベースという考え方は、目新しいものではないし、あり方そのものが否定されるべきではないだろう。しかしながらKPIの取り方については、その指標で政策の達成度を測って良いのかという疑問が浮かぶものも決して少なくない。上述の「女性の合計特殊出生率」は現状を知る数値ではあるが、個別地方自治体の政策目標数値にすべきだろうか。政府が主唱するSociety 5.0にむけてのKPIづくりは、イメージ先行で何を目指していくのかがクリアでなく、どの地方自治体も指標に難航している。
私がエビデンスに基づく地域政策というものに、初めて具体的に接したのは、西暦2000年前後の英国の労働党ブレア政権の時期であった。政府は地方政府にはエビデンスを求めたし、その結果によっては地方政府は大きな財政上や権限上の制約を被ることもあった。
英国政府は地方自治体むけの持続可能な発展の評価指標づくりガイダンスとして、『地域の生活の質の計算:持続可能な発展の地域指標メニューのためのハンドブック』を2000年に発表し、2004年に改訂版を発表した。(Department of the Environment, Transport ant the Region, Local quality of life counts ―A handbook for a menu of local indicators of sustainable development, 2000, Department for Environment, Food and Rural Affairs, Quality of Life Counts ― Indicators for a strategy for sustainable development for the United Kingdom, 2004 Update, 2004.)
これらの中では、実際に指標ごとにデータの推移を示し、それぞれの改善ないし悪化の状況について明確に示されている。「我々の経済、環境、社会の福利は相互依存している」ことを持続可能な発展の根底におき、これらを地域の生活の質というかたちで総合し、その質を高める政策を求めている。我が国の地方創生はこのような包括的な地域政策へのアプローチを求めているであろうか。エビデンスの利用方法も含めて、比較検討する材料があるように思われる。