地域政策は何のためにあるのか

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三澤 樹 (国土交通省)

 筆者が大学院生の時に、北海道のとある自治体に政策提言をするために、フィールドワークを行った。研究のテーマは自然環境と教育について、保全活動等の参加者が高齢化し、減少している中、管理する範囲が広くなっている状況をどうするべきなのかということである。当時、筆者と同級生たちは、住民の思いが込められた大切な自然を守るための解決策の提案に努めた。しかし、判明した根本的な課題は、そこにある自然環境を残すための価値とは何なのかということである。これについて、明確な答えが出ず、当時の研究活動を終えた。

 ここから筆者が考え付いたことは、このような自然環境以外にも、各地域には伝統を理由に祭り等の行事が残っているが、人口減少で担い手が少なくなっている中、無理に残そうと拘り続ける理由はあるのかということである。思いだけで伝統を続けることには、限界があるのではないか。現代的な利用価値が無いとすれば、そこにある伝統は必要なしと考えるべきではないか。

 このように、地方創生が上手くいかない理由は、曖昧な思いだけで継続していこうとしているからだと考えている。一方、現代にも通用する価値を持つことが出来れば、そこにある地域は外部から、人、モノ、カネが集まると考えている。

 現在の日本は東京一極集中を解消すべきであるとされており、その解決策の一つとして、都会にはできない地方だからこそできる、収益を生み出す価値を発掘していく必要がある。例えば、都会には無い、地方の強みの一つとして自然の豊かさがある。
 
 しかし、一度失われつつある地域資源に新たな利用価値を与えることは難しい。もし、これができない場合、東京一極集中を是正する必要はないのではないかとも考えている。なぜなら、特定の範囲に人、モノ、カネが集まることによる効率の良さがあるからである。

 また、現在の日本は、東北を例にすると、太平洋側にインフラが集中している。例えば、新幹線と高速道路である。一方、日本海側は十分な高速道路と新幹線があるとは言えない。この状況で、日本海側のような条件不利地域で、地域おこしを成功させることに無理があるのではないか。

 だが、本当にそれで良いのだろうか。太平洋側だけにリソースを集める問題点として、災害リスクがあることと、領土問題を抱えている地域がある。これを考慮すると、日本全体に基本的なインフラは残していく必要があるだろう。そのために、各地方自治体の課題は、そこにしかない価値を見出すことである。それが地域政策であると考えている。

 また、秋田県大館市では、最年少の市長が誕生したように、過疎地であっても、希望のある若者が存在するため、そのような方たちが今後どのような地方創生の事例を生み出してくれるのか期待していきたい。なお、筆者も現在、このテーマについて研究を進めている。

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