地域政策学というのは比較的新しい学問分野だと思いますので、今のところ、それぞれ伝統的な専門分野をお持ちの方々が数多く集まった学際的な側面が強い分野だと感じています。私の元々の専門分野は都市・地域・空間経済学であるため、院生時代から主として工学部土木・計画系の方々と一緒に学習・研究をすることが多く、その後勤務した国の研究所・高専・そして現在の職場(地域政策学部)も学際性の高い場所でした。学際研究はわが国において90年代以降大幅に進みましたので、私はちょうどその実験段階の様子から、学際研究が当たり前となった最近の状況までを、現場で目撃してきた気がします。
学際研究は、縦割りの専門分野内の視野の狭さにとらわれない、手法やこれまでの経緯より分析対象に力点をおくことができる、など数々の利点がありますが、ここ30年間ほどでその弊害もかなりはっきりしてきたように思われます。私が最も強く感じているのは、複数分野の狭間で、研究の努力やその成果の度合いがはっきりしなくなるという点です。かつては、研究論文を見れば著者がどういったバックグラウンドを持ち、どれほどの労力や時間を注いだかは一目瞭然でしたが、学際分野においては他分野の影響を受けて完成度がさらに高まる研究が出現する一方で、学際性を「言い訳」にして各分野の基本要件をすり抜けようとする研究も見受けられるように感じます。
もちろん、縦割りが基本だった時代の「重箱の隅をつつく」状況や、理論が時代遅れになってもその分野における経験年数だけがものをいう、という状況が必ずしもよかったとは思えません。ただ、単一分野においても学際分野においても、究極的に研究の「質」というものが存在しないとすれば、そこには研究のインセンティブも生まれないでしょう。新しい学問分野が確固とした地位を築くにあたって、その方向性と「深み」をどのように創造していくかという点は、伝統分野にはない課題だと考えます。