地域政策学と社会科学の「厳しさ」

2025年3月3日

米本 清 (高崎経済大学)

 私は元々(地域・都市)経済学者ですが、地域政策学部の教員となって13年間が経とうとしています。地域政策学という分野の存在意義や長所もかなり理解してきましたが、いまだに「フワフワした」感じも受け続けています。3年前に当欄に書いた通り、それは学際性による面も大きいかと思いますが、一般的に、社会科学の学問的な「厳しさ」からだいぶ距離をおいた世界であるような気がします。

 私は近代経済学系の経済学者ですが、それでも20世紀の大学では、経済学は貧困や失業、恐慌などから人々を救うものであるといった大義名分を、かなり頻繁に聞かされました。分野には大御所がおられ、定説があり、手法や議論が「高度」かそうでないかがはっきりとし、少し気を抜くと、いわゆる「誤り」や「未熟」を指摘されてしまうことが日常的でした。そこには入門学生ばかりか「実務」を経験してきた人も容易に近づけないような、高い山が聳えていました。私の専門ではないものの、法学や社会学といった他の社会科学の分野も、多かれ少なかれそうであったのではないでしょうか。アカデミックな「厳しさ」の背景には、その学問が人々の生死や社会の存続に関わるような、重大な問題を取り扱っているという意識もあったように思います。まだ大恐慌や大戦、近代以前の貧困や格差をリアルタイムで覚えている方々が多くご存命だった時代ならなおさらのことです。

 私は、地域政策学はあの頃の社会科学のような「厳しさ」や緊張感を持つべきだ、などというつもりはありません。逆に、後発の分野として老若全ての研究者が自由な発展を模索することができますし、楽しいトピック、何となく興味を持った対象などを、気軽に研究することもできます。今後、そのような「長所」を活かしてこの分野がますます成長することを願ってやみません。ただ、私達のようにあの時代を覚えている世代は、やはりたまには当時の「厳しい」雰囲気を思い出すのも必要なことではないか、とふと思ったりもします。

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