地域社会における担い手問題を改めて考える

2023年7月3日

今井 良幸 (中京大学)

 数年前になるが、居住する地域の自治会の役員(副会長)を引き受けた。筆者の住む地域の自治会では、いくつかの班があり、役員はその班ごとに持ち回りで選出されるが、筆者の班では、前任者が次の役員の候補者のあたりを付け、お願いしに行くことが慣例になっていた。筆者のところに辿り着くまでに何人もの候補者に断られたらしく、候補者の順位としては高くなかったわけであるが、引き受け手が見つかったことにより、前任者は安堵したことだろう。

 筆者が引き受けた理由としては、いくつかの自治体で、自治基本条例の制定に携わらせていただく機会があり、それに関連して地域自治組織の問題を考える中で、学問的な視点だけではなく、実際に経験してみる必要性を感じたことによる。しかし、このような動機をもつ人間は稀であり、特に企業等で勤務する現役世代にとっては、その負担を考えると、引き受けることが難しいのは当然のことであろう。筆者の住む地域の自治会は、決して活発に活動しているわけではないものの、毎月2回の広報等の配付にあたっての準備や、清掃、文化祭などの定例行事、また突発的に生じる自治会内の問題への対処など、それなりの負担はあった。

 そして、2年の任期を終えるにあたって、後任者を見つける必要が生じたが、案の定、簡単にはいかなかった。その際、現役で企業等に勤務していることを理由に断わられる方が何人かいたが、その内には既に定年年齢には達しているものの再雇用等で勤務を継続されておられる方もいた。

 企業等でフルタイムで勤務している状況では時間的な制約から難しいが、定年後には地域活動に携わりたいと思っている人は一定数いると思われる。しかし、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の規定による、65歳までの雇用確保措置を講ずることの義務化を前に、また労働生産年齢人口の減少による人手不足等を背景にして、定年延長や再雇用制度等の導入が進むことにより、現役時代が長くなり、定年を機に地域活動にデビューしようとしても、それが遅くなる状況が生じているのではないか。企業等における定年年齢の延長や再雇用制度の導入が、地域自治組織をはじめとした地域活動における担い手確保の困難さを生む、1つの原因になりつつあるように思われる。

 これまで、地域での活動に関しては、若者や女性にいかに参加をしてもらうか、ということが常に議論されてきたが、このことは言うは易く行うは難しで、どこの地域でも苦労している状況がある。一方で、地域により状況は異なり一律に述べることはできないが、比較的年齢が高い層は、若い世代と比較して地域活動にかかわることに対して積極的であったようにも思われる。しかし、企業等での現役期間が長くなる一方で、いわゆる健康寿命は大幅に伸びているわけではなく、退職後に地域活動に力を入れたいと思っていても、その期間はこれまでよりも短いものになりかねない。

 そうは言いつつ、これからも高齢化が進む中、また人生100年時代とも言われる中で、他方で今後、高齢者の単身世帯が更に増加することが予想される中で、地域自治組織の中において、企業や行政機関等での経験を基に、高齢者の方に活躍してもらいつつ、どのように見守っていくかということが、これまで以上に重要になろう。地域に溶け込む期間がより長い方が、地域内でのつながりをより深めることができると考えられることから、今後は、企業等からの退職を待つだけでなく、できるだけ早い時期から地域活動に携わってもらうことができるよう、如何に働きかけていくか、ということをこれまで以上に考えていく必要があるように思われる。

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