地域農業を振興するためには、農業者を支援する様々な組織の存在が欠かせない。その中で代表的なのが、農業普及組織、農業協同組合、そして地方国立大学農学部であろう。これらの組織は地域農業振興という共通の目的を持ちながらも、これまで必ずしも密接に連携してきたわけではなかった。その要因は、第1にそれぞれの組織が成り立つ制度の違いである。普及は都道府県(国との協同事業の形をとっているが、財源移譲に伴い実質的に都道府県単独の事業)、農協は農林水産省、大学は文部科学省という縦割り行政の弊害が、例えば予算の使用、人材の交流といった側面で、3者の交流を妨げてきた。第2に、支援の対象者が異なる。普及は担い手経営に支援を絞り込み、農協は小規模高齢農家も含めた組合員を対象とする。一方で大学は、入試を通過した学生のみを対象としている。地域農業支援という観点からは、大学が最も選別的ではある。
近年、もう1つの共通点がこれら組織には形成されつつある。いずれも組織の縮小再編を余儀なくされているということである。普及は予算の一般財源化に伴い他の政策分野に予算をとられ、農協は広域合併により営農指導事業は不採算部門として真っ先にリストラされている。大学が厳しい予算・人員の縮小を強いられていることは、大学教員も多い会員諸氏には周知のことであろう。このような状況下で必要なことは、それぞれが残された資源を持ち寄り、制度の壁を越えて地域農業振興という共通の目的に向かって協力することである。皮肉なことではあるが、組織の危機が新しい協働の機運をもたらしつつあるのである。
地域農業にとってみれば、良い支援を受けられるのであれば、それがどこの組織からのものであろうと関係は無い。病人にとってみれば、国立病院や県立病院の違いなど、適切な医療を受けられればどうでもいいことなのである。こだわっているのは、組織の中にいる当の本人たちだけであろう。組織の壁を越えた協働の先には、研究・普及・教育が三位一体となった新しい地域農業支援体制を構想することができるだろう。それが単一の組織となるのか、それとも各組織のネットワークになるかは分からない。ただ、地域に根差し、また地域に開かれた研究教育に中心的な役割を果たすこと、また各主体の接点となることが、大学の研究者に求められていることは間違いない。日本地域政策学会の会員に求められていることも、まさしくその点であろう。