地域間連携によるラムサール条約湿地の保全

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林 健一 (中央学院大学)

 これまで、条約により課された締約国義務(条約義務)は、その名宛人である国(中央政府)が履行するものとみなされてきました。しかし、条約は、国内法に変形しなくとも国内法として、日本国憲法下では通用し、最近では、WTO政府調達協定、SOLAS条約、小樽市外国人入浴拒否事件(札幌地判平成14.11.11)等のように、多数国間条約の内容によっては、地域政策に少なからず影響を及ぼす事例が見られるようになっています。
 こうした事例に鑑みると、地方自治体は、条約義務に対して、自らの役割と強みを活かす形で、どう向き合っていくべきなのか議論が必要と思われます。私は、このための検討素材として、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)に注目しています。
 
 ラムサール条約をはじめとする環境条約は、保護対象とする自然生態系が地域によって様々な個性を有しており、発現している課題も地域社会との関係性を反映しているため、環境保全に関する枠組み的な義務のみを条約本文に定め、決議等の附属書やガイドラインにおいて、環境基準や推奨される保全措置などを示す、いわゆる枠組み条約の形式をとっています。このため、条約本文の示す義務の順守措置だけでなく、義務内容を発展的に実現する支援・促進的措置の具体化が、環境条約の国内実施における重要な政策課題となります。
 とりわけ、地方自治体は、地域における行政の自主的かつ総合的実施主体として、二つの措置を中核とする、湿地保全のための地域政策を構想していくことが期待されています。
 
 ラムサール条約締約国会議においても、締約国への奨励としての性格をもつ決議、方針、各種ガイドライン等が多年にわたって蓄積され、その成果は、”Ramsar Handbooks”(全21巻)として公表されています。ところが、このハンドブックは国際専門機関による検討を経た有用な政策情報源であるにも関わらず、一部しか日本語に翻訳されていない等の事情もあり、自治体実務の現場であまり考慮されておらず、活用の促進が課題となっています。
 条約機関の示す政策指針等を政策プロセスの各サイクルにおいて、政策法務的な観点から、地域課題の文脈に即して読み替えていくことは、条約義務等を地域レベルで実質化する等、様々な効用が期待できます。
 例えば、条約機関の示す政策指針は、湿地保全に関する条例、行政計画などを立案、実施していくための情報源となるだけでなく、ベンチマーク的に参照することにより、グローバル・スタンダードの視点から、地域の湿地政策を評価、検証することが可能となります。また、NPO・NGO等のステークホルダーが、条約機関の示す政策指針を活用することにより、効果的な環境配慮行動の実践、提言など、新たな湿地地域政策の形成や政策の変容も期待されます。
 
 しかし、湿地と水鳥の保全は、特定地域の関係主体による取り組み(地域連携)では限界があります。つまり、水鳥は、国境を超えて長距離移動を行い、季節によって繁殖地、中継地、越冬地を移動している特性を持ち、生息環境が一か所でも悪化すると水鳥全体に影響します。そこで、渡りの経路(フライウエイ)にあり、相互に補完関係にある湿地(周辺地域を含む)を擁する複数地域の関係主体が、湿地のモニタリングとその情報共有、生息環境保全などに同一歩調で取り組むなど、地域間連携に発展させていくことも重要な課題となるのではないでしょうか。

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