地方の小規模高校の意義

2023年11月1日

神 志穂 (北海道大学)

 地方創生のもと、高校と地域が連携し、魅力ある学校づくりが全国各地で進められている。統廃合への危機感から、地方部の小規模校で、自治体や企業などと連携して地域課題の解決に取り組むなど、地域を活かした学習活動による学びの魅力化が図られるようになった。取り組みにより小規模校の入学者数が増えるだけではなく、高校を核に人の動きが生じる、地域の魅力が増して移住者が増えるなど、地域も活気づくことがわかってきた。地方の小規模校からはじまった高校の魅力化は、Society5.0に対応した新たな学びの創出、地域を担う人材育成、関係人口創出、地域活性化などの社会の要請と合流し、これからの地域をつくる取り組みへと展開している。

 一方で、高校の統廃合は続いている。北海道では2008〜2023年の間に230校の道立高校のうち41校が統廃合された。存続する高校のうち3割が1学年1学級である。2018年から、再編整備の基準を1学年20名だったところ10名未満に緩め、地域の実情に応じた特例措置も取られている。しかし、それがいつまで続くかはわからない。新しい教育課程を作ったからといって、すぐに入学者が増えたり地域が活性化したりするわけではない。高校を核とした地域づくりを政策的に進め、地域が動き出しているにもかかわらず、核となる高校の存続を短期的な入学者数で判断することには疑問を感じる。

 小規模校に通うのは、学びや自己の成長に対する意欲の高い生徒だけではない。筆者の調査する人口約1,300名の北海道幌加内町にある町立幌加内高校は、全校生徒40名弱のうち7割が旭川や札幌などの都市部あるいは道外出身者である。彼らの中には、中学時代に不登校であった、虐待などの困難な家庭環境にあるなど、多様な背景を持つ者もおり、入学当初は学習意欲や自己肯定感が低かったり、他者とのコミュニケーションに消極的だったりする。中学までの人間関係や自分のあり方を変えたい、自分を知る人が誰もいない場所でゼロからスタートしたい、という生徒の気持ち、あるいはそうなってほしいという保護者の願いが、地方の小規模高校を選ぶ要因になっている。

 卒業生に話を聞くと、高校で自分は変わった、コミュニケーション力や発言力、自信がついたという。変化の要因として、発言や発表の機会が多いこと、全員が必ず役割を持っていること、教員が一人ひとりに合わせて丁寧に指導することなど小規模校の特性に加え、学外での多様な人との関わりが挙げられる。高校での新たな人間関係の構築は、自分を変えるための彼らの挑戦でもある。町と連携した学習活動で、町の大人に自分の意見が受け入れられた、認められた、という経験は、彼らの自信や意欲を向上させる。

 その上、小規模だからこそ、生徒は地元の人との顔の見える関係を構築できる。除雪車を見ていたら乗せてくれた、休日に役場の人が町を案内してくれた、公園でお年寄りから声をかけられ一緒にゲートボールを楽しんだ、など、小さな町ならではの大人からの働きかけが、生徒のコミュニケーション力と地域に対する愛着を育んでいる。地元の人との関わりを良いと感じる生徒は、卒業して町を出ても、関係人口になる。町に戻り地域づくりをしたいとか、母校の教員になりたいと考え、必要な知識と経験を得られる進学先を選ぶ生徒もいる。

 高校の存続や魅力化を考えるとき、入学者数、経済効果、人口増など数字に目が向きがちである。多様な子どもたち一人一人を大切にし、個性を伸ばし、成長させる、地方の小規模校の人を育てる力こそ、これからの地域、ひいては社会に必要である。

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