安全保障政策と地域政策 イージス・アショア設置問題から考える

2019年10月1日

楠山 大暁 (ノースアジア大学)

安全保障政策は中央政府の専権事項であり、複雑な国際情勢に左右されるものでありながら、地域住民の日常生活に多大な影響をおよぼす可能性を有しています。安全保障政策が持つこのような特殊性は、時として中央政府と地方政府の間に多大な緊張関係を強いることになります。このような事例の最近のものとして、筆者が居住する秋田県秋田市へのイージス・アショア設置問題を挙げることができるでしょう。秋田市のホームページによれば、2018年6月1日、防衛省側から秋田市に、イージス・アショアの配備候補地として、陸上自衛隊新屋演習場を調査したい旨の申し入れがありました。その後、数度におよぶ市や住民に対する説明会が実施されてきました。しかしながら、説明に使われたデータに誤りがあったり、さらには、防衛省側担当者の住民説明会における態度に問題があったりして様々な議論を呼んだのは報道のとおりです。現時点ではイージス・アショアの設置に関して、地方政府および地域住民側の不安や不信が完全に払拭されたとは言えない状況です。

地域政策の観点からは、このイージス・アショア設置問題をどのように捉えるべきでしょうか。言うまでも無いことですが、民主主義国家における支配の正当性は、政治権力に対する市民の支持によって担保されます。そして、民主主義国家における安全保障政策もまた、市民の理解と支持無しには成立しません。そうだとするならば、「安全保障政策は中央政府の専権事項だから」と、地域住民や地方政府の意向を無視することはあってはならないはずです。安全保障政策は、地域政策でもあるのです。筆者は、安全保障に必要であるならば、秋田へのイージス・アショアの設置もやむなしとの立場をとっています。ただし、「安全保障に必要であるならば」という前提条件を強調しておきたいです。なぜ、秋田にイージス・アショアなのか、そして地域住民の生活にどのような影響があるのか、さらには地方政府の実施する地域政策との整合性はとれるのかなどの議論を、ひとつひとつ丁寧に積み上げていく必要があるでしょう。これらの論点について、中央政府である防衛省側が説明を尽くすのはもちろんのこと、秋田県や秋田市といった地方政府側にも主体的な情報発信をお願いしたいと思います。中央政府と地方政府が対立を乗り越え、ローカルからグローバルに至る公共政策が実現してはじめて、私たちの暮らしの安全と平和は保たれることになるでしょう。

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