定率制での宿泊税導入拡大を期して

2023年4月3日

石黒 侑介 (北海道大学)

3月2日、北海道ニセコ町が宿泊税導入に向けた事務を進める旨のリリースを行った。
「ニセコ」は、日本を代表するデスティネーションであり、世界的な競争力を持つ。宿泊税を含めた観光税の導入が今やグローバル・スタンダードであることを踏まえれば、宿泊税の議論を加速させることの妥当性は高い。私はニセコ町の観光審議会委員を仰せつかっている身でもあり、こうした動きを可能な限り後押ししたいと考えている。

これまで少なくない地域で宿泊税の検討に関わってきたが、そこでは概ね、導入による価格競争力の低下を懸念する「業界」対、新たな財源を確保したい「行政」という構図で議論が起こる。そして宿泊税が「受益者負担の原則」に照らし合わせて妥当であるかを問う声が「業界」からあがり、「行政」が宿泊税の導入によって得られる「益」を説明して理解を乞う展開となる。

ただし、ここで考えるべきは、実は宿泊税の受益者は、それを支払う旅行者であるということだ。もちろん、代理徴収の膨大な事務作業を引き受けることになる「業界」の理解は極めて重要だ。ただ、アンケート調査などを行うと、税を支払う立場にある旅行者は意外にも宿泊税の支払いに前向きだったりする。それにも関わらず、「業界」は受益者の声を代弁するように反対の態度をとるというのが常だ。その点、ニセコ町では「業界」も早い段階から宿泊税の使途や目的、制度のあり方について議論を進めており、そこに「ニセコ」の先進性を垣間見たりもする。

また「受益者負担の原則」がことさら強調される点にも違和感を感じることが多い。地方税は「応益原則」であり、受益者負担の原則そのものは否定しない。しかしそれを完全に徹底しようとなれば利用者からの料金収受になるべきであり、そもそも宿泊「税」とするのは受益者負担の原則に限界があることの裏返しでもある。また、多くの地域では「観光プロモーション」と呼ばれる広告・宣伝の拡大こそが「業界」と「行政」の最初で唯一の合意点となるが、プロモーションによって受益するのは「業界」や未だ見ぬ「明日の消費者」であり、宿泊税を支払った「今日の消費者」ではない。これこそが先ほどの「受益者負担の原則」に最も反すると思うのだが、なぜかその点があまり議論されない。

今回、ニセコ町は定率制での宿泊税導入を目指す。
日本で初めて宿泊税を導入した東京都以来、宿泊税の定石は定額制であり、定率制での宿泊税はニセコ町の「お隣」倶知安町を除きこれまで例がない。これも宿泊税論で「受益者負担の原則」が強調されすぎた弊害だろうと個人的には考えている。「受益者負担の原則」の限界を早期に認識し、別の観点で税収の最大化とそれによって実現する効果の最大化を目指す議論が広がっていれば、定率制も視野に入って然るべきだ。

もちろん税額を計算する事業者の手間、さらには税務調査の難しさなど問題点が多いことも認識している。ただ欧米の宿泊税に定額制が多いのは、国や州が定める宿泊施設の公式な格付け制度によって、累進制が担保されているためである。一室15平米のビジネスホテルと150平米の高級リゾートホテルの利用者から100円、200円を一律に収受する制度で良いだろうか。ニセコ町の「狼煙」を機に、こうした議論が広がることを期待したい。

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