地域の課題を解決するための研究や実践の成果をまとめるという地域政策の特性上、実践報告は非常に重要である。これらの報告が蓄積されることで、やがて何らかのグランドセオリーが生まれることが期待される。科学の進歩は一般的にそのようなものであり、一度の報告で結論が確定することは少なく、何度も追試を重ねることで結論が一般化さる。
たとえば医学において、「疾患Aの患者にBという治療を行った結果、Cという状態になった」という個々のケースレポートを医学雑誌に掲載し、その積み重ねによって「疾患Aの患者に治療Bを行うとCという状態になりやすい」という結論が導かれてきた。これが現在でいうEBM(Evidence Based Medicine: 根拠に基づく医療)の基礎となっている。
ここで注意が必要なのは、例外が存在することである。「疾患Aの患者にBという治療を行った結果、Cという状態になった」場合もあれば、「Dという状態」や「Eという状態」になることもありうる。
この考えを地域政策に当てはめると、個々の実践報告をまとめて共通の要因を探索することになるが、報告されたものが例外なのか、一般化できるものなのかは、その報告だけでは判断できない。したがって、実践を繰り返しながら一般的な法則を見出すことが、今後の地域政策の発展において重要と考えられる。
しかし、実践を積み重ねる必要がある一方で、例外にスポットが当たり、それがあたかも一般化されたかのように扱われることも少なくない。たとえば、ある感染症の予防接種において副作用が発生した事例が強調され、「予防接種を受けると多くの人に副作用が起こる」という言説が広まることがある。実際には副作用の発生は極めてまれであっても、その事例が報告されることで、多くの人が必要以上に恐れ、予防接種を忌避してしまうことがある。その結果、予防接種の普及が進まず、感染症罹患者の増加リスクが高まってしまう。
他にも、コロナ禍において「東京から地方への移住」が大きく報道された際、それをもとに「東京は流出人口が増加し、人口が減っている」と誤認されることがあった。しかし、実際にはコロナ禍でも東京の人口は増加しており、特定の事例だけで判断すると、現実の状況を誤って認識してしまうことがある。
今後の地域政策の発展のためにも、実践報告は非常に重要である。会員の皆様には、学会誌や学会報告において積極的に実践報告をお願いするとともに、特定の事例に基づくだけでなく、統計資料なども意志決定の材料として活用いただければ幸いである。