山形県酒田市における公益のまちづくり

2023年10月2日

小野 英一 (東北公益文科大学)

 山形県酒田市では、日本で唯一「公益学部」を設置している東北公益文科大学が存立するということや、公益活動の歴史が連綿と続いてきていることなどから、「公益のまちづくり」が展開されている。

 酒田市における「公益のまちづくり」の核となるのが、2007年に制定された「酒田市公益のまちづくり条例」である。同条例の前文では以下のように述べられている。「私たちのまち酒田は、公益の祖といわれた本間光丘をはじめとする先人が、砂防林の植林やまち並みの整備に尽力し、地域社会の安定と繁栄をもたらした地域特性をもつまちです。この地に、東北公益文科大学が開学し、公益学の発信地として、新たなまちづくりの歴史をつくろうとしています」。このように、前文において「本間光丘」と「東北公益文科大学」といった「公益」と関連の深い固有名詞が登場しており、酒田市の「公益」という個性・独自性を積極的に出した条例となっている。

 東北公益文科大学は初めて「公益学」に取り組む大学として2001年に酒田市に開学した大学である。東北公益文科大学は開学以来これまで「公益学」の研究蓄積と体系化を先導してきている。

 また、酒田市の属する山形県庄内地域は、公益活動の歴史が連綿と続いてきていることから「公益のふるさと」とも称されるが、その象徴ともいえるのが本間光丘である。本間光丘は「公益の源流」として位置付けられ、その「公益」の業績を高く評価されている。本間光丘は、山形県庄内地域の豪農、豪商であった本間家の3代目当主であり、事業・商売を飛躍的に発展させた一方で、藩校や堰・用水路などの公共施設の整備などに莫大な寄付・協力を続けた。また、地域の貧困者、被災者を援助・救済したり、私財を投じて大規模なクロマツ砂防林の植林に取り組んだりするなど、公益活動を実践した。

 2008年には「酒田市公益活動支援センター」が設置され、さらに2018年には「酒田市公益活動支援センター」と酒田市社会福祉協議会のボランティアセンターが一体となり「酒田市ボランティア・公益活動センター」が設立されている。

 なお、酒田市では2016年4月に「酒田市中長期観光戦略」を策定したところであるが、当戦略では「北前船交易や最上川舟運の“交易”と、豪商たちのまちづくりの精神“公益”を基本的な柱として観光振興を進めていくことが重要である」とし、「酒田の中長期観光戦略のオリジナル・ストーリーとして、“交易”と“公益”を 2 つの柱として設定し、「KOEKI(交易と公益)のまち・酒田」とする」と方向性について打ち出している。つまり、「公益」は酒田市の「中長期観光戦略」においても二本柱の一つという重要な位置付けにある。

 以上のように酒田市では、「公益」という自己の個性・独自性を活かし、「公益のまちづくり」を進めてきている。近年光が当てられている「SDGS」や「幸福」は「公益」と親和性が強く、酒田市における「公益のまちづくり」の今後が注目される。

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