持続可能な地域コミュニティの形成と中間支援組織

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櫻井 常矢 (高崎経済大学)

 今年元旦の能登半島地震から3か月が経過しようとしている。被災地の風景は震災時と変わらず、がれきの撤去などは過去の震災と比較しても明らかに遅れている。復旧・復興の遅れが、被災地からの人口流出に結びつくことは東日本大震災の経験が示している。さらに俯瞰してみれば、能登半島地震は日本各地に見られる離島や半島をはじめとする過疎・高齢化の深刻な地域の今後のあり方を問いかけている。より現実的な視点から持続可能な地域づくりとそれを支える社会的な仕組みを考えなければならない。

 各地では、地域運営組織(RMO)の形成など、持続可能な地域づくりに向けて行政、民間双方から多様な取組みが展開しているが、筆者はその中でも特に中間支援組織(施設)による地域コミュニティ支援の動向に関心を寄せている(拙著『地域コミュニティ支援が拓く協働型社会』(2024年3月・学芸出版社)を参照されたい)。90年代に登場する日本の中間支援組織は、NPO・市民活動のニーズに対応した支援事業を主に進めてきた。これに対して、近年の中間支援組織には地域コミュニティへの支援の動きが顕著であり、RMOの形成や地域包括ケアシステム(生活支援体制整備事業)の構築に関与するなど、いずれも地域の団体や機関等の連携を促す点に特徴がある。従来までの個別の団体支援に加え、多様な主体間の連携に基づく地域自治支援へとその機能を変化させていると言ってよい。さらに中間支援組織は、都道府県域や市域など支援活動の主たる範域を概ね有しているが、これらの機能の変化に並行して校区や自治会、さらには集落までも対象とするなど支援範域を拡大させている。こうした動向は2010年以降、特に地方都市を中心に広がりを見せている。

 他方で、中間支援組織にはいくつかの課題が指摘できる。自治体の協働政策のもとでの指定管理者制度や事業委託等をめぐる行政との関係を通して、中間支援組織自体が事業請負型となってしまい、NPO間、支援組織間の競争と分断が進んでいる、との指摘はすでに多くある。本来、協働とは、地域課題への気づきと共有、話し合いを通じた主体間の役割分担や課題解決に向けた実践、そしてふり返り(評価)という一連のプロセスをともに歩むことが重要となる。しかし、あらかじめ行政が決めた地域課題をNPOに委託したり、逆に協働提案型事業としてNPOから提案された課題がそのまま協働事業として採択されたりするなど、提示された課題を解決すること=事業活動が目的化してしまう状況がある。そこには、ともに地域社会に潜在化する課題を発掘したり、議論したり、共有したりするフェーズが消えているなど、協働のプロセスの空洞化が指摘できる。

 近年の中間支援組織による地域自治支援には、地域円卓会議やRMO等の組織運営支援(マネジメントサポート)、地域担当制によるアウトリーチ型支援など多様な手法を取り入れながら、地域課題の顕在化・共有化、当事者意識の醸成、多様な人びとの参加、そして地域団体の再活性化など、面としての地域のエンパワーメントを実現してきている。そこにはまた、当該地域の課題の発掘と共有から解決に至るまでの一連のプロセスに中間支援組織が関与し続けるという意味で、協働型社会を再興する契機を含んでいると言える。持続可能な地域づくりに果たす中間支援組織の機能とその社会的意義が注目されるのである。

 

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