次代の地方創生を担う子どもたちを育てる

2019年8月1日

渡部 芳栄 (岩手県立大学)

商店街の活性化,農業経営の高度化,定住・交流人口の増加などは,地域づくり・地方創生の取り組みとしていずれも重要なものであるが,やはり子どもたちの育成が最も重要であると言いたい。子どもたちには,自分たちの目で見て,手で触れて,感じて,これからの社会を創造する力を身につけてもらいたいと思っている。

日本創成会議「ストップ少子化・地方元気戦略」において,“消滅可能性”のある市町村比率が総じて高いとされた東北地方であるが,筆者が居住する岩手県は,その中でもさらに高い比率を示す北東北に位置している。「地方」というと自然豊かで,子どもたちは友達と元気に遊びながら育っているようなイメージがある。その自然体験や他の子どもたちと関わるような各種体験について,全国的には平成17年度から平成24年度にかけて「何度もある」の割合が大きくなり,その後横ばいを示しているらしい(国立青少年教育振興機構編,2019,『「青少年の体験活動等に関する意識調査(平成28年度調査)」報告書』,pp.11-12)。そんな中,筆者が2017年度に行った調査によると,10年前の子どもたちの自然体験や生活体験の度合いよりも,今の盛岡市の子どもたちの体験の度合いがほとんどすべての項目において下回っていることが分かった。

この結果を見たときに,2つの衝撃が走った。第1に,「盛岡の子はたくさん自然に触れ,友だちといっぱい遊んで過ごしているわけじゃないのか」という衝撃である。盛岡市内の17の小中学校のみを調査対象としているため,「盛岡の子どもたちは」という一般化は難しい。しかし,調査対象には歴史の長い(ゆえに,周りの人々との関わりが強いと思われる)地域や,自然に囲まれている地域も一定数存在する。盛岡市は県庁所在地ではあるが,地方の子どもたちの自然・生活体験が少ないことには単純に驚いた。第2に,「いろんな体験の少ない子どもたちが,これからの地方創生(岩手の地域づくり)を担うことへの影響はいかほどだろうか」という衝撃である。体験が多い子ほど各種能力を身につけているというのは,国立青少年教育振興機構の一連の調査で報告されており,経験上もおそらく正しい。

勉強をちゃんとやっていれば問題ないという意見もあるかもしれないが,残念ながら岩手の子どもたちの学力は中学校では全国で最下位に近い。さらには,岩手の中学生は学校での熱意も低く,家庭学習や予習復習の時間も少なく,通塾率も低い(ただし,部活の加入率は高い)ということも,全国学力・学習状況調査の結果が示している。このままでは,いろんな学習や体験の機会に恵まれている大都市圏の子どもたちのほうが資質・能力等の育成も有利であり(もちろん,どこに居住しようと,子どもたちにとって多くの機会があることは良いことである),今後の地方創生も地方の人たちが自力でできるようにはならないのではないかとさえ思ってしまう(大げさかもしれないが)。

ならどうすればいいのかという明確な答えを筆者は持ち合わせていないが,1つの可能性として,大人も子どもも学び続ける文化の創出が必要なのではないかと思っている。平成28年社会生活基本調査の結果を見ると,学習・自己啓発・訓練の行動者率(15歳以上)の岩手県の値は40位付近で,残念ながら15歳以上の人々にも学びの習慣が根付いているとは言えない。子どもたちが自ら学び,行動するようになるためには,まずは大人たちが学び,行動する姿勢を見せなければならないだろう。

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