全国に約24万人いる民生委員・児童委員が昨年12月1日に一斉に改選された。民生委員の任期は3年。児童福祉法により民生委員に就任すると児童委員と兼務することになっている。選任過程は、市町村に設置された民生委員推薦会が推薦した者について、都道府県に設置された地方社会福祉審議会の意見を聴いて都道府県知事が厚生労働大臣に対して推薦し、厚生労働大臣が委嘱する流れである。したがって民生委員・児童委員の身分は、非常勤特別職の地方公務員であり、無報酬の公的ボランティアでもある。
その成り立ちは、大正6年(1917年)に岡山県で発足された済世顧問制度、大正7年(1918年)に大阪府で発足された方面委員制度が源流となっている。昭和3年(1928年)に方面委員制度が全国に普及され、昭和21年(1946年)に方面委員は民生委員に改称され、現在に至っている。
職務については、民生委員法第1条に「社会奉仕の精神をもって、常に住民の立場に立って相談に応じ、及び必要な援助を行い、もって社会福祉の増進に努めるものとする。」とされ、制度発足当時は、行政の補助機関として主に生活保護世帯への相談、支援が任務とされてきた。現在は、在宅高齢者の生活支援、児童の健全育成、子育て支援、障害者の自立生活支援など活動範囲は幅広く、地域福祉の推進、向上のためには欠くことのできない存在となっている。
このように活動範囲が広がれば広がるほど仕事が増え、負担感が増大するため私生活とのバランスが保てなくなり、近年は1期3年で退任する例もみられ、新たになり手がいなく、慢性的な人材不足が深刻化している。この度の改選において、全国で15,191人の欠員が生じ、戦後最多であるとの報道がされ、関係者に衝撃が走った。筆者のいる新潟県では、定数3,502人に対して欠員が198人、指定都市である新潟市は定数1,375人に対して欠員が87人という状況にある1)。
それでは、どのようなことが要因となり、民生委員の負担感が増大しているのか。全国民生委員児童委員連合会が平成28年11月に「これからの民生委員・児童委員制度と活動のあり方に関する検討委員会報告」をとりまとめ、公表している。これによると行政機関からの依頼が多く次のような点が指摘されている。①福祉分野のみならず、災害対策、消費者保護、交通事故予防等、幅広い行政機関からの協力依頼が増加。②各分野の行政機関の間での調整がなされていない。③民生委員でなくとも対応可能な事項まで協力要請がなされる。④民生委員による協力が規定される法令の多さと協力範囲の曖昧さがある。⑤縦割り行政の弊害と行政職員における民生委員への理解不足がある。これに加えて地域福祉を推進する団体として社会福祉法に規定される社会福祉協議会(以下「社協」と略す)においても⑥地区社協活動、共同募金、行事の周知等、協力依頼事項が多い。⑦社協会費の徴収等、民生委員の協力に疑問のある活動の依頼もある。⑧生活福祉資金等、協働してきた事業においても情報提供の不足等など関係が変化している。⑨社協職員における民生委員への理解不足。⑩社協の事務局体制の脆弱さにより、安易に民生委員に依存するなどが挙げられている。さらには、⑪福祉団体等をはじめ、多様な機関・団体からの役員・委員の就任依頼の増加、いわゆる「充て職」が多い。⑫学校をはじめ、多様な機関・団体等から事業や行事への協力要請や参加依頼がなされる。
以上のとおり、民生委員に就任することにより自動的に付帯される役割がこれだけ多いことがわかっている。それではこの問題をどのように解決すべきか、答えは極めて単純で「行政や社協、学校等は民生委員に必要以上に仕事を依頼しない」「民生委員は必要以上に仕事は引き受けない」に尽きる。しかしこの2つを実行することは容易なことではない。何故なら民生委員は生活場面に寄って立つ存在であり、福祉のアンテナ(支援対象者の情報収集の能力)の役割を担ってきたため、前述のとおり活動範囲、協力範囲を曖昧にしてきたわけである。換言すれば柔軟性を持ち、機動力があり、臨機応変に動けることこそが民生委員の持ち味であり、民生委員信条にもある「良き隣人」として存在してきたわけである。
100余年の歴史を持つ民生委員制度が人材不足により、その機能や役割が果たせずに途絶えてしまわぬように民生委員のおかれている環境を注視し、過剰な負荷が掛からぬようにすることが求められる。早急に取り組むこととして縦割り行政の弊害に巻き込ませないよう庁内調整を十分に行った上で民生委員・児童委員に協力依頼し、良好な関係性を形成することが求められてくるのではないだろうか。
出所
1)新潟日報、2023年1月15日27面