私は社会心理学の立場から,偏見やステレオタイプの研究を専門としてきました。こうしたテーマは,近年では「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」としてビジネスや人事の場でも注目され,社会全般に広がりを見せています。そうした中で,私自身も自治体の男女共同参画研修などで講師を務めたり,男女共同参画審議会の委員として議論に参加したりする機会が増えてきました。研修では行政職員や地域住民と意見を交わしますが,印象的なのは「自分が無意識の偏見を持っていた」と気づいたときに驚く方が多いことです。そうした気づきが行動や意識の変化につながっていく可能性があり,地域政策を考えるうえでも,意識の転換を後押しすることが重要だと実感しています。
私の最近の研究テーマの一つは,在留外国人に対する偏見です。政府の方針のもとで外国人労働者が増加するなか,「外国人労働者はたくましい」といったステレオタイプが存在します。表面的には肯定的に聞こえる評価ですが,その結果として必要な援助や配慮が十分に行われず,それが正当化されてしまう危険があります。こうした考えは必ずしも悪意に基づくものではなく,多くは「無意識」に形成され,地域社会の中で再生産されていきます。
また,近著『ピンクと青とジェンダー』(2025年,青弓社)では,子ども用品や広告に見られる「ピンクは女の子,青は男の子」という固定観念が,どのようにジェンダー観を形づくっているかを論じました。こうした色と性別の結びつきもまた無意識の偏見の一例です。地域の教育や行政の広報にジェンダー的な色分けや役割意識が紛れ込むと,気づかぬうちに固定観念を強化してしまう危険があります。
外国人労働者に対するステレオタイプも,ジェンダーと色を結び付ける固定観念も,一見すると異なる領域の現象に思えます。しかし,いずれも無意識の偏見が日常生活や地域社会に浸透し,行動や態度に影響を与えている点で共通しています。制度や仕組みを整えるだけでなく,こうした偏見の仕組みを理解し,教育や広報に活かしていくことが,多様性を尊重する地域づくりには欠かせない視点だと考えています。
社会心理学は,偏見を可視化し,低減させるための実証的な知見を提供してきました。研究の発信にとどまらず,行政職員や地域住民と連携しながら研修や啓発の場に関わることで,地域政策に一定の貢献を果たせるのではないかと考えます。