真っ当な順番で考える大切さ

2021年4月1日

石川 和男 (専修大学)

 私の専門は、マーケティング論・流通論ですが、単に理論研究ではなく、これまでさまざまなモノ(商品)やヒトと関わり、それらの動態を観察してきました。特に最近は、ゼミナールの学生たちと地方に行き、現地でのモノやヒトの動きを観察することが増えました。他方、現地ではわれわれに対するさまざまな期待を聞く機会も増えました。学生、特に都市部出身の学生には、地方でのモノやヒトの動きは多くの驚きに満ちているようです。コンビニエンスストアが当たり前のようにあり、いつでもモノにアクセスできる環境、情報を検索しようとすればすぐに入手できる環境を当然と思いがちです。しかし、そうではない地域があることに驚かせるされることがあります。また、そうした地域で夜歩いていると、無数の流れ星を見、街路灯の下に蝉やクワガタ、カブトムシが落ち、足をばたつかせているのを見たりすることもあります。さらに宿泊所の目前の海で釣り糸を垂れ、魚を釣る感動や日の出で目を覚ますことができることを経験することもあります。

 こうして現地に出向き、少しの間でも生活をすることで得られる経験は非常に貴重です。ただ経験だけではなく、この地域には何があって、足りないのか。どのようにすれば生活は豊かになるのか。生活の質の低下はないのか。自分たちに手伝うことができること、できないことに考えを巡らせることが、地域政策の出発点と体感するようになりました。それは私だけでなく、同行する学生たちもです。訪問した地域では最初に「こういうことにいくら補助金が出る、助成がある」という話も聞きます。中には、日常がこれらの補助金や助成金の申請をすることに時間を費やしている人たちに出会うこともあります。たしかに経済的支援がなければ、動かないこともたくさんあります。もしろその方が多いでしょう。ただ自分たち、余所から来た人たちとじっくりと話し、考えることで新たな方向性を出せないかと考えることも必要です。そんなことはずっと前からわかっているといわれることもあります。ただ、余所から来た人たちと話すことで、これまで出てこなかったとんでもないアイデアに出会うこともあります。子どもの数が減少し、廃校・統合で学習環境が悪くなった地域ではその回避の動きがありました。そこに余所から「留学生」として子どもと親を連れてくればというアイデアを出したのはゼミ生でした。それから一気に事態が動き、今春からは余所から来た子どもたちがこの学校で学ぶことになります。他方で留学生に何かしら経済的支援が得られないかと調べたところ、補助金だけでなく、住居場所の手当ができる状況となるようです。

 こうして経験したのは、最初から補助金・助成金ありきの発想ではなく、じっくりとみんなで考える。その上で足りないものをどうするかという真っ当な順番で考える大切さです。それは現場から滲み出るとあらためて感じています。

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