空き家問題を考える  ―リノベーションまちづくりの可能性と限界―

2022年9月1日

安達 義通 (山梨県立大学)

地方が抱える大きな問題の一つに「空き家問題」がある。例えば、住宅・土地統計調査の平成30年のデータをみると、我が国の「空き家」件数は846万戸で、空き家率は13.6%と過去最高となっている。30年前の昭和63年の空き家率は9.4%で、この30年間で4.2%、452万戸増加している。

実は、私が居住している山梨県は、空き家率が全国1位で21.3%(平成30年)となっている。別荘などの「二次的住宅」を除いた空き家率でみると17.4%と全国6位に下がる。別荘の空き家化が大きな特徴となっているが、いずれにしても全国的に高い水準にあることには変わりない。

このような「空き家問題」を解決するまちづくり手法のひとつとして注目されているのが「リノベーションまちづくり」である。「リノベーション」とは、「中古住宅等に対して、その機能・価値を再生させるための包括的な改修を行うこと」である。また、「リノベーションまちづくり」とは、「空き家などの遊休不動産をリノベーションの手法を用いて再生させつつ、地域の雇用創出、新たな産業振興、地域コミュニティの再生などにつなげていくまちづくりの手法」である。もう少し具体的に言うと、近接して立地している複数の遊休不動産を産業集積に導くような共通のコンセプト等でリノベーションし、面として拡大させながら、まちの再生につなげていくというものである。

山梨県でもリノベーションまちづくりが少しずつではあるが実践されている。例えば、甲府市では、平成28年6月から計6回の構想策定委員会の開催を経て、「甲府リノベーションまちづくり構想」を策定した。同時に実際の空き物件の具体的なリノベーション方法を考えるリノベーションスクールも開催された。このリノベーション事業に前後して、若者を中心とした民間のリノベーションの動きもいくつか見られた。例えば、未利用であった小さなホテル、スナック、商店を主にバックパッカーをターゲットとしたゲストハウスへと改修した事例や、未利用な古民家をレストランや事務所へと改修した事例、老朽化し空き店舗となった料理屋を若者向けの健康志向の居酒屋に改修した事例などがあげられる。その開発手法も様々で、若者が友人の手を借りながら主にDIYを中心にリノベーションした事例もあれば、まちを愛する不動産屋がクラウドファンディングで資金を集めて実施した事例もある。現在では、山梨県がリノベーションのための補助金制度を設けている。

山梨県、特に甲府市の事例は、リノベーションまちづくりが理想としている「面」への広がりを作ることができておらず、「点」として物件が点在しているような状況にとどまっているが、いくぶんか若者の雇用は創出され、何よりも若者の交流拠点としての機能を果たしているように思われる。このように、ミクロでみるとリノベーションまちづくりという手法によって、「空き家」「空き店舗」といった地域資源が有効に活用され、「空き家問題」がいくぶんか解決していっているようにみえる。

しかしながらマクロでみると異なった結論になるようだ。まだ、このリノベーションまちづくりという動きが活発になってからのデータがないので確かなことは言えないが、山梨県、あるいは甲府市の空き家の数が今でも増加している可能性がある。それには様々要因が考えられる。例えば、国の無計画な新規住宅建設支援や、日本人の新築好きというメンタリティー、木造住宅の短い経済的な耐用年数という考え方などが挙げられる。このような特徴は他国と比較すると鮮明になる。

例えば、英国では、新築で家を建てようとすると、日本とは比較にならないレベルの許可や手続きが必要になるため敬遠されがちになる。一方、家は壊さず長く住むものと一般的には考えられており、大抵の人が中古住宅を購入し、DIYで手を入れ、住宅価値を高めていく。むしろ古い住宅は人気があり、例えば、私の英国滞在中、ヴィクトリア時代に建てられた上下に動く窓がある家は、趣きがあるので価値が高いと聞いた。実際に英国(イングランド)の空き家率は日本の1/4以下というデータもある。

このように考えると、ミクロで見た場合、我が国のリノベーションまちづくりは、「空き家問題」を解決しつつ、まちづくりにも貢献する可能性を大いに秘めていると思われるものの、マクロで見た場合、我が国における「空き家問題」はもっと根が深いように感じる。我々はよりグローバルな視点で「空き家問題」を考える必要があるようだ。

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