統計不正問題を憂う

2019年3月1日

佐藤 英人 (高崎経済大学)

 毎月勤労統計の不正に端を発した一連の統計不正問題が波紋を呼んでいる。報道によれば、基幹統計の多くが、所定とは異なる手法で集計・公表されるなど、不適切に処理されていたという。筆者を含め、統計を用いて研究に取り組んでいる学会員は少なくない。統計の信頼が根底から揺らげば、研究のいわば「屋台骨」を失うに等しく、到底看過できない憂慮すべき問題であろう。

 現時点でほとんど話題になっていないが、東京オリンピック・パラリンピックで沸き立つ2020年は、5年に1度の国勢調査の調査年でもある。今般の統計不正問題によって、国民の統計に対する意識や関心が希薄になれば、高い精度を保つための調査は難しい。国家の礎ともなる統計が杜撰に扱われることの危険性、すなわち客観的なデータに基づく政策立案ができなくなる恐れを、今一度、国民は真摯に考えるべきであると思う。

 筆者はこれまでの研究で、度々、質問紙調査を実施してきた。質問紙調査で重要なことは、事前に調査の意図や意義を対象者に十分理解してもらうことである。調査への基本的な理解が得られなければ、当然、協力も得られるはずもなく、有効回答率は惨憺たるものになってしまう。唯でさえ、調査が難しいこんにち、「貴重なデータを収集させて頂く」という謙虚な姿勢と、時間と労力を割いて下さった対象者への敬意を忘れてはならない。国が統計法を盾に調査を押しつけた挙げ句、不適切な処理がなされれば、国民の心は離れ、近い将来、基幹統計はもちろん、研究者が実施する社会調査や地域調査も立ち行かなくなるだろう。

 統計不正問題に連座した関係機関には猛省と再発防止策の策定を促すとともに、統計調査の重要性を国民に広く詳説してもらいたいと愚考する次第である。

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