全国の高校への進学率は98.7%(2023年度)になっている。北海道は、国土の23%、小さい順に並べて22都府県に相当する面積を有している。そのため、北海道には268高校(以下2025年度の学校統計に基づく)があるが、179市町村のうち、55市町村は高校がなく、93市町村は1校のみである。例えば、全国の市町村の面積トップ10に入る足寄町、遠軽町、別海町は、東京都や大阪府の面積の半分よりも広い面積を有しているが、高校は1校のみである。この93市町村の高校は1学年の平均生徒数41人の小規模校であり、そのうち28校が文科省による再編基準である20人を下回っている。北海道では、地理的状況を考慮して、10人未満が2年間続くと閉校が決まり、毎年どこかの高校が統廃合されている。そのような町村では、道立高校から町村立や定時制に移行する努力、生徒寮を設け、「地域みらい留学」で都市部から高校生を集めることで閉校を回避しようという努力なども見られる。
高校がない市町村では、成績が良い中学生は学生寮に入るか家族で移住することで札幌の高校に通う事例や、隣接する中核都市の高校に朝6時台に自宅を出て部活をして(満員状態のバスで)夜8時台に帰宅する事例、高速道路開通を機に、職場のある村に住んでいた小中学生が高校のある市町に移住し、保護者が通勤する事例などが見られる。このような状況は、高校生を持つ保護者は常に少数派であり(かつて経験した人々は「喉元を過ぎれば熱さ忘れる」ために)、改善されることはなかった。
新任の高校教員が、その教科の担当は自分1人となる地方の小規模校に着任することや、子育て世代になると札幌圏や中核都市で勤務すること、管理職になれば、単身赴任で地方の小規模校を回ることなどが多い。そのため、教員や管理職の女性比率も全国で飛び抜けて低い状況にある(女性教員のみならず厳しい勤務を強いている)。現在32校の小規模高校に配信している北海道高等学校遠隔授業配信センター(T-base)は、高校生が学ぶ環境を得るための挑戦と言える。担当教員が、情熱を持って創意工夫した質の高い授業を展開している(「予備校にいる熱血教師」のイメージに近いかも知れない)。
「自宅から高校に通える権利の保障」として、未成年のうちは保護者の元から高校に通える地域政策が必要ではないか。戦後教育は、学習指導要領のもとで大都会から離島まで同一の知識を授け、均質な人材を都市部の産業界に供給し、日本の高度成長に貢献してきた。いわば「地方を捨て、都会に憧れる」人々の気持ちを醸成してきたというのは言いすぎかもしれないが、食料自給率(および再エネを通じたエネルギー自給率)を支える魅力ある地域づくりにとっては、足かせになってきたように感じられる。DE&Iの時代に向けて、30年後の未来は、既に高校生という形で始まっているならば、彼らに自宅から通える地域を経験してもらえることは、ささやかな願いではなく、未来に直接貢献するものだろう。