数値で示せないものを大切にする

2015年10月1日

竹本 田持(明治大学)

過疎地域は財政力指数,人口減少率や高齢者比率・若年者比率,振興山村は林野率と人口密度というように,客観的な数値によって地域指定がなされます。しかし,そうした数値は,各地域が抱える課題や問題点,あるいは地域づくりの努力を具体的に示すものではありません。そこで暮らす人々にとっては,客観的な数値よりも,楽しい経験や思い出,毎日の平穏無事な暮らしが重要になるでしょう。

ところで,いささか話は脱線しますが,こうした見方から想起されるのは,1980年頃に話題になった水田の地力問題です。当時,冷害の被害程度の差を契機に地力の低下が指摘され,地力とは何か,どのようにして地力水準を判断するかが議論されました。客観的かつ科学的には,収穫量や冷害時の減収率などに加え,養分量や湛水透水性,陽イオン交換容量などの分析的な数値が重視されます。農家として最も関心が高いのは収穫量ですが,それは品種によって異なりますし,作物が違えばさらに比較は難しくなります。筆者が行った農家アンケートによれば,結果としての数値とともに,これまでの土づくりの努力,土地に対する働きかけの程度によって,いわば「期待」として主観的に地力水準を判断する面があることがわかりました。土づくりとは日々,年々の積み重ねですから,短期間に結果を得ることはできず,期待を数値で示すことも困難です。

地域づくりにも同じような面があると思っています。地域づくりも,時間のかかる努力の積み重ねであり,その結果を数値だけで示すことはできないからです。土づくりへの継続的取り組みが「期待」としての地力を高めるように,地域づくりへの継続的取り組みが地域の活力となり,活性化をもたらすのではないでしょうか。「これで“あがり”」というように終着点があるのではなく,「この土地の地力は高いはず」,「この地域の活力は高いはず」というような,主観的な期待が大切になります。つまり,地域づくりに近視眼的な成果を求め,数値化された結果だけで判断することできないのです。

ところで,近年は教育に対しても数値による成果が求められるようになっていると思います。入学試験は点数だけではなく多様な観点から行うことを要請する一方で,教育のアウトカムは数値で判断する,それも短期間での達成を求めるというのでは,「人づくり」である教育現場は混乱することになります。

地方創生の動きが,こうした混乱に陥らないことを願うとともに,自身への戒めを含めて,地域づくりの継続的な努力を支援するための議論を深めたいと思います。

2015年10月1日

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