地方自治体の公文書管理を中心として

2016年1月4日

桑原 英明(中京大学)

 地方自治体の公文書管理から地域政策について考えることにしたい。国の行政機関は、平成24年から施行された「公文書管理法」により文書の作成から保存・廃棄までの一連の文書管理を義務づけられている。これは、消えた年金問題や薬害問題の重要な資料が役所の倉庫から「発見」されたことなどから、公文書は国民との共有財産であるという理念から、一定の要件を満たす公文書については、行政文書としての保存期限を過ぎた後も、特定歴史公文書等として国立公文書館等で永久に保存することを法制度化したものである。これに対して、地方自治体の公文書管理について、同法は、公文書管理条例の制定を義務づけていない。これは、多様な地域の実情を反映したものと理解されている。しかしながら、果たしてこのままで良いのであろうか。

 ここで、総務省自治行政局行政経営支援課が行った「公文書管理条例等の制定状況調査結果(平成27年3月)」によると、公文書管理条例を制定しているのは、都道府県で5団体(11.6%)、政令指定都市で4団体(20.0%)、市区町村では12団体(0.7%)に過ぎない。もっとも、公文書管理条例を制定していない自治体の大半は、公文書管理に関する規則・規程・要綱等を定めているが、自治体議会や住民に対する説明責任という点では不十分(条例化を図ることで公文書は住民との共有財産であるという行政職員の意識改革にもつながる)であるといわざるを得ない。また、保存年限を過ぎた行政文書の「全てを廃棄」と回答したのは、都道府県では0団体であるが、政令指定都市でも1団体(6.7%、未回答の団体があるため条例制定団体の数値とは一致しない)、市区町村に至っては570団体(36.4%、数値は政令指定都市と同様)に登っている。もちろん、未だに多くの自治体で、行政文書としても永年保存文書の区分を残している団体もあるので単純に考えることはできないが、公文書館をもたない自治体では、庁内の文書庫の許容量しか重要な公文書を残せていない現実が見えてくる。特に、平成の大合併にともなって、編入された多くの自治体で大量の公文書が廃棄されたという事実を耳にしたときは、驚きとともに無力感を痛感したのは筆者だけではないであろう。

 集権融合型の地方自治制度を採用している日本では、明治以来、伝統的に国の省庁の影響力が極めて強かった。しかし、2000年以降の地方分権改革、そして今次の地方創生の潮流のなかで、地方分権の歩みを止めるわけには行かない。そう考えると、地域政策の主体である自治体行政、自治体議会、そして住民の果たすべき責務は、これまで以上に重くなったと考えるべきで、単なる行政の説明責任を越えて後世の世代に対する自治体としての説明責任も負っていることを忘れてはいけない。それとともに、地域政策を研究対象として設立された本学会も、その研究成果を踏まえて、国や地域社会に対して積極的に政策提言を行うことも、本学会に課された使命のひとつといえるのではないか。

2016年1月4日

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